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「日産とルノーが相互に20%出資」がありえる根拠

ゴーン問題の着地点を聞く(1)ナカニシ自動車産業リサーチ代表・中西孝樹氏
 日産自動車、三菱自動車、仏ルノーのトップに君臨してきたカルロス・ゴーン容疑者が逮捕され拘留のまま年を越そうとしている。足元では3社連合の支配関係をめぐり日産と仏ルノーの間で綱引きが続く。日産は、「ゴーン支持」の色を見せていたルノーが譲歩し、日産主導で事態が動きだす展開を期待する。ルノーはこれからどう動くのか。着地点の見通しについて3人の識者に聞く。1回目はナカニシ自動車産業リサーチ代表の中西孝樹氏。

 ―連合の「対等の精神」を守ってきたゴーン容疑者はなぜ変節したのでしょう。
 「近年、ゴーン氏の口からよく出たのが、『アライアンス(連合)の絶対統治者』という言葉。仏政府に邪魔されない連合トップに君臨し長期政権を築くという野心を抱いており、その前のステップとしてルノーCEOとして日産との経営統合に動いたのではないか。『対等の精神』を捨てたとは思わないが、権力欲が勝った」

 ―日産はルノーに支配される資本関係を見直したい意向です。
 「日産がルノー株を買い増して出資比率を25%以上に高めれば、ルノーの議決権が消滅する。これが最も過激なやり方。しかし信頼関係を崩壊させる。両社ともに連合を維持したいという思いは共通しており、この手法を実際に実行することはないだろう」

 ―現実的な選択肢は。
 「相互出資を再調整し20%ずつにする決着はありえる。仏政府・ルノーにとっては主従関係がなくなるマイナスはあるが、株の売却で1兆円近く入り、成長投資に活用できる。また『改定アライアンス基本合意書(RAMA)』と呼ぶ両社の契約もカギ。RAMAには『日産の取締役会決定事項について、ルノーは株主総会で反対できない』といった項目があり、日産の独立性を高めている。ルノーの支配力に制限がかかっている状態で、日産株を43%も保有していること自体が無駄という考え方もある」

 ―現状維持に落ち着く可能性は。
 「あり得る。ただ日産は、今以上に独立性を確保できるようにする条件を付けるのではないか」

 ―日産の経営体制は変わりますか。
 「ゴーン氏逮捕を契機に、日産は『リ・ジャパナイゼーション(再日本化)』を進めたいようだ。今後、主要ポストで日本人の登用が増えるのではないか。グローバル感覚が薄れ、ルノーとの協業がスムーズにいかなくなる懸念はある」
 ルノーから日産への出資は43・4%なのに対し、日産からルノーへの出資は15%で議決権もない。ただ両社は「対等の精神」でシナジーを創出してきた。ゴーン容疑者はその守護神で、2015年にルノーの筆頭株主である仏政府が日産への関与を強めようとした時も盾になった。
 しかし18年に「対等の精神」の維持が脅かされる事態になった。仏政府がゴーン容疑者に対し、ルノーの最高経営責任者(CEO)の続投と引き換えに日産・ルノー連合を不可逆な関係にする条件を出した。それをゴーン容疑者が飲み、経営統合に向け動きだした。日産は、そうした動きに反発し、検察のゴーン容疑者逮捕に全面協力したとの見方が専門家の間で支配的だ。

日刊工業新聞2018年12月28日

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