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ゆうちょ銀行の預入限度額倍増、金融8団体が強い反発

 政府の郵政民営化委員会はゆうちょ銀行の預入限度額について、現行の1300万円から2600万円に倍増するよう提言した。政令改正を経て2019年4月にも実施する方針で、全国銀行協会など金融8団体は「民間金融機関との公正な競争条件が確保されていない」との共同声明を出して強く反発した。今回の動きは来夏の参院選をにらんだ政治決着との見方もあり、完全民営化に向けた道筋は依然として不透明なままだ。(長塚崇寛)

 27日に会見した日本郵政の長門正貢社長は限度額の見直しについて「(限度額の議論は)顧客の利便性向上と職員の事務負担の軽減のため」とあらためて述べ、低金利環境の中「率先して貯金を増やす経営方針ではない」ことを強調した。

 民営化委はゆうちょ銀の預入限度額について「通常貯金」と「定額性貯金」に分離した上でそれぞれ1300万円にすべきだという意見書を正式に決めた。これにより合計の限度額は2600万円に倍増する。引き上げは16年4月以来となる。

 意見書では、日本郵政が約89%を保有するゆうちょ銀株式を将来売却し、3分の2未満に引き下げることも明記した。これに対し金融界は「日本郵政が保有するゆうちょ銀の株式全部処分に向けた具体的な説明責任が果たされていない」と厳しく批判した。

 民間金融機関がゆうちょ銀の動向に反発するのは、政府が間接的に株式を保有する後ろ盾がある中での肥大化は民業圧迫につながるとの論理からだ。限度額規制の緩和で特に影響を受けるのが地域金融機関だ。限度額の引き上げにより、地域金融機関からゆうちょ銀へ資金シフトが生じた場合「地域の金融システムに多大な悪影響を及ぼす恐れがある」(金融界)と警告する。

 地域金融機関とゆうちょ銀は地域活性化ファンドの創設などで連携を進めているが、今回の決定で共生の動きにブレーキがかかりかねない。預金を不毛に取り合う競争に逆戻りすることは双方にとって損失そのもの。地域活性化や地方創生推進にも逆行する。

 また、民営化委の岩田一政委員長は「将来的に望ましい案は、通常貯金を限度額の対象から外すことだ」と発言しており、これに対する反発も必至。通常貯金は限度額規制により、法人の事業資金の決済には不向きだった。だが、規制対象外になれば法人預金が一気にシフトする可能性もある。

 ゆうちょ銀の在り方をめぐっては公正な競争条件の確保や地域との共存を含め、慎重に検討されるべきだとの声は高まるばかりだ。
日刊工業新聞2018年12月28日

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