郵政民営化10年、いまだ成長戦略描けず

完全民営化か、NTTモデルか

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6月の郵便料金の値上げに合わせて発行された62円の切手とはがき
 10月1日で郵便、郵便貯金、簡易生命保険の郵政3事業が民営化して10年がたった。「官から民へ」。小泉純一郎政権下で始まった郵政民営化の流れはこの間、政権交代などで大きく蛇行。ようやく2015年11月に上場にこぎ着けた。政府は9月末に株の第2次売却に踏み切ったが、ユニバーサル(全国一律)サービス維持のくびきから抜け出せない宿命にある上場企業の成長戦略はいまだに描き切れていない。

 第2次売却で政府の株式保有比率は8割強から6割弱に下がり、政府は初回売り出しと合わせて2兆8000億円を得る。しかし2次売却の価格は新規株式公開(IPO)時の売り出し価格1400円を下回る1株当たり1322円。

 しかも、日本郵政自身の1000億円の自社株買いという株価の下支え、そしてNTTやJRの株売却では行わなかった1000億円規模の「バッファー」(投資家の人気に応じた株の売却数のコントロール)を設けた上での価格だ。

「中期経営計画の純利益4500億円に向けて努力している」。長門正貢日本郵政社長は少子高齢化、マイナス金利下でのユニバーサルサービス維持の難しさを吐露する。

 過去に竹中平蔵経済財政・郵政民営化担当相(当時)は「国債運用で利ザヤを稼ぐ手法はもう成立しない」と郵政民営化の意義を説いて回ったが、07年10月の分割・民営化以前、国債が中心の郵便貯金の資金運用は民間をしのぐ競争力を持っていた。

 当時の日本郵政公社の04年3月期決算で郵貯の最終利益は当時の東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の約4倍の2兆2755億円にも達していた。

 しかし日本郵政の17年3月期決算は、稼ぎ頭のゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の金融2社の経常利益で外国債券などリスク性金融商品での運用を拡大させたものの、マイナス金利の逆風を跳ね返せず2期連続の減益となった。

 さらに100%子会社の日本郵便が15年5月に約6200億円で買収した豪物流大手トール・ホールディングスの4003億円の「のれん代」一括減損処理で、明治時代から延々と営んできた郵政事業初の赤字に転落した。

 日本郵便の経営は郵便物の減少や人件費高など逆風が続く。トール買収は上場に向けての成長戦略を示す狙いがあったがそれが裏目に出た格好だ。

 JR4社のように完全民営化するのか、金融2社についてもNTTのように政府の関与を残すのか。民営化10年を機に再検証する必要性に迫られている。
                

(文=八木沢徹)

日刊工業新聞2017年10月2日の記事を一部加筆・修正

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 日本郵政グループは非正規社員20万人を抱える40万人組織だけに、低金利下での人件費見直しという民営化時には考えられなかった課題にも直面している。  東京や愛知など3都県の郵便局に勤務する契約社員「ゆうメイト」3人が同じ内容の仕事なのに正社員と待遇格差があるのは不当だとして手当の差額計約1500万円の支払いなどを求めた訴訟で、東京地裁は9月14日に「住宅手当などの不支給は違法」などとし、会社側に計約92万円の支払いを命じた。  この訴訟は民主党政権下で改正された「労働契約法20条」(13年4月施行)に基づくものだが、安倍晋三政権が掲げる同一労働同一賃金などの「働き方改革」の動きを先取りしたものと言える。 (日刊工業新聞・八木沢徹)

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