【WRS開催中】お片付けロボの動作、成否を左右する人工知能
国際ロボット競技会“ワールド・ロボット・サミット”21日まで
生活支援ロボットの重要要素の一つに物体を認識する能力がある。家庭の中でものを拾い上げたり、持ち運ぶためには、日用品や家具、家電など多様なモノを認識しないと働けないからだ。ワールド・ロボット・サミット(WRS)のサービス部門のパートナーロボットチャレンジでは、ディープラーニング(深層学習)などの人工知能(AI)が動作の成否を左右した。
WRSサービスロボット部門では家の中で散らかったオモチャや日用品を片付けたり、取ってくるタスクが競われている。参加者には大会2日前に競技で使う日用品が渡された。各チームは日用品の画像データを作成して、AIに学習させ、認識機能を構築した。大会初日の17日は認識などに失敗するチームが続出。2日目の18日は認識に成功してモノをつかんだり、片付けられるチームがぐっと増えた。
この24時間で何が変わったのか。大会運営に携わる九州工業大学の石田裕太郎大学院生は「多くのチームがこの24時間で、正解データを手作業で作っていた」と指摘する。参加チームは、日用品を渡されたらまず写真を撮る。日用品を回転台に載せて全方向から撮影するチームや、スマホで周囲を動画撮影して大量の画像データを集めるチームもあった。
ただこの画像をそのまま学習させても認識精度は向上しない。そこで日用品のみを背景から切り出す作業を手作業で進めた。「初日と二日目の差は、手作業のデータ量の差。これを加えて学習して認識精度が向上した」と石田さんは説明する。
九工大は競技に参加しており、初日、2日目ともに1位だった。この理由の一つが学習データ生成の自動化だ。実際にロボットが見るカメラ映像には一枚の画像にいくつもの日用品が映り込む。一方、正解データは1品ずつ撮影するから、1品しか写っていない。学習したAIで認識するには、映像の中からモノが映っている部分を抜き出して、そこからAIにかける必要がある。この一手間が計算負荷を増やし、確実性を下げてしまう。
九工大は競技会場の部屋に、いくつもの日用品が散らかった画像を自動生成した。まず日用品と、部屋の床や家具、収納などの写真を撮る。日用品写真から背景を取り除き、床や収納などを背景に画像を合成する。この合成画像をAIに学習させて精度を高めた。技術を開発したのは石田さんだ。背景が一致した状態で複数の物品を同時に認識できる。「毎秒に5-6回、複数のモノを認識し続けられるようになった」と胸を張る。自動化の効果は大きく、安定的に認識精度を高く保っている。ロボットにとって初めて見た物品、初めて訪れた部屋でも約2日間で働けるようになりつつある。
ただ「いまはプロが頑張ってロボットに教えて2日間。はやく、普通の人が頑張らずに教えて2日間で働けるようにしたい」(石田さん)としている。
小さく、手が長く、力持ち-。こんな相反する特徴を求められるロボットがいる。インフラ保守や災害対応分野のロボットだ。たとえば工場内でロボットが生産設備を点検するために移動するには、配管が林立する狭い空間で、限界までアームを展開し、固く締まったバルブを開ける必要がある。だが小さなロボットは長いアームを支えられず、アームを伸ばしきった状態では力強い作業が難しい。ワールド・ロボット・サミット(WRS)インフラ・災害対応部門では、このトリレンマ(三重苦)問題と格闘している。日本のロボットが活躍するチャンスでもある。
WRSのインフラ・災害対応部門のテーマは災害対応とインフラ保守の両立。日常で点検に利用するロボットを災害や事故時にも投入する狙いがある。だが海外の災害対応ロボは大きく、重く、パワフルなものが多い。これは軍事用や対テロなどのニーズがロボット開発をけん引してきたためだ。
そのため災害対応ロボにはスリム化が求められている。走行性能や力強さはそのままに、機体を小さくして、配管の間やキャットウォークでも働く必要がある。18日はプラントの点検中に事故が起こり、ロボットが消火栓を開いて消火するタスクが始まった。このタスクで長岡技術科学大学などのチームが最高点をたたき出した。2位のチームにくらべて1・7倍の点を獲得した。
長岡技科大学のロボットは日本の木造家屋を想定して作られた。倒壊した家屋の中で要救助者を捜索する。そのためシステムをコンパクトに構成した。アームは展開して1メートルとそれほど長くはない。ただ先端に3本爪ハンドを備え高出力のモーターで回転させる。これがバルブの開閉に有効だった。リーダーを務める塩谷昌行大学院生は「アーム先端のモーターが強い。初期消火タスクでは三つすべてのバルブを回せた」と胸を張る。
バルブ操作は難しい課題だ。レバー式のバルブはレバーをつかんでも、手首の回転軸とバルブの回転軸が合わない。そのため手首や肘にあたる関節を連動させてひねる動作が必要になる。これがアームを伸ばしきって余裕のない状態では難しい。三本爪ハンドは回転軸をそろえれば、爪が引っかかりバルブを回して開けられる。塩谷さんは「力があり制御が簡単な点が有効だった」と説明する。
海外の大きなロボットはキャットウォークの下など狭い空間には入れなかった。WRSでプラント点検という舞台が示されたことでトリレンマを解く挑戦が広がった。その中で日本勢は活躍できるポテンシャルをもっている。
WRSサービスロボット部門では家の中で散らかったオモチャや日用品を片付けたり、取ってくるタスクが競われている。参加者には大会2日前に競技で使う日用品が渡された。各チームは日用品の画像データを作成して、AIに学習させ、認識機能を構築した。大会初日の17日は認識などに失敗するチームが続出。2日目の18日は認識に成功してモノをつかんだり、片付けられるチームがぐっと増えた。
この24時間で何が変わったのか。大会運営に携わる九州工業大学の石田裕太郎大学院生は「多くのチームがこの24時間で、正解データを手作業で作っていた」と指摘する。参加チームは、日用品を渡されたらまず写真を撮る。日用品を回転台に載せて全方向から撮影するチームや、スマホで周囲を動画撮影して大量の画像データを集めるチームもあった。
ただこの画像をそのまま学習させても認識精度は向上しない。そこで日用品のみを背景から切り出す作業を手作業で進めた。「初日と二日目の差は、手作業のデータ量の差。これを加えて学習して認識精度が向上した」と石田さんは説明する。
九工大は競技に参加しており、初日、2日目ともに1位だった。この理由の一つが学習データ生成の自動化だ。実際にロボットが見るカメラ映像には一枚の画像にいくつもの日用品が映り込む。一方、正解データは1品ずつ撮影するから、1品しか写っていない。学習したAIで認識するには、映像の中からモノが映っている部分を抜き出して、そこからAIにかける必要がある。この一手間が計算負荷を増やし、確実性を下げてしまう。
九工大は競技会場の部屋に、いくつもの日用品が散らかった画像を自動生成した。まず日用品と、部屋の床や家具、収納などの写真を撮る。日用品写真から背景を取り除き、床や収納などを背景に画像を合成する。この合成画像をAIに学習させて精度を高めた。技術を開発したのは石田さんだ。背景が一致した状態で複数の物品を同時に認識できる。「毎秒に5-6回、複数のモノを認識し続けられるようになった」と胸を張る。自動化の効果は大きく、安定的に認識精度を高く保っている。ロボットにとって初めて見た物品、初めて訪れた部屋でも約2日間で働けるようになりつつある。
ただ「いまはプロが頑張ってロボットに教えて2日間。はやく、普通の人が頑張らずに教えて2日間で働けるようにしたい」(石田さん)としている。
インフラ・災害対応は日本のロボが活躍するチャンス
小さく、手が長く、力持ち-。こんな相反する特徴を求められるロボットがいる。インフラ保守や災害対応分野のロボットだ。たとえば工場内でロボットが生産設備を点検するために移動するには、配管が林立する狭い空間で、限界までアームを展開し、固く締まったバルブを開ける必要がある。だが小さなロボットは長いアームを支えられず、アームを伸ばしきった状態では力強い作業が難しい。ワールド・ロボット・サミット(WRS)インフラ・災害対応部門では、このトリレンマ(三重苦)問題と格闘している。日本のロボットが活躍するチャンスでもある。
WRSのインフラ・災害対応部門のテーマは災害対応とインフラ保守の両立。日常で点検に利用するロボットを災害や事故時にも投入する狙いがある。だが海外の災害対応ロボは大きく、重く、パワフルなものが多い。これは軍事用や対テロなどのニーズがロボット開発をけん引してきたためだ。
そのため災害対応ロボにはスリム化が求められている。走行性能や力強さはそのままに、機体を小さくして、配管の間やキャットウォークでも働く必要がある。18日はプラントの点検中に事故が起こり、ロボットが消火栓を開いて消火するタスクが始まった。このタスクで長岡技術科学大学などのチームが最高点をたたき出した。2位のチームにくらべて1・7倍の点を獲得した。
長岡技科大学のロボットは日本の木造家屋を想定して作られた。倒壊した家屋の中で要救助者を捜索する。そのためシステムをコンパクトに構成した。アームは展開して1メートルとそれほど長くはない。ただ先端に3本爪ハンドを備え高出力のモーターで回転させる。これがバルブの開閉に有効だった。リーダーを務める塩谷昌行大学院生は「アーム先端のモーターが強い。初期消火タスクでは三つすべてのバルブを回せた」と胸を張る。
バルブ操作は難しい課題だ。レバー式のバルブはレバーをつかんでも、手首の回転軸とバルブの回転軸が合わない。そのため手首や肘にあたる関節を連動させてひねる動作が必要になる。これがアームを伸ばしきって余裕のない状態では難しい。三本爪ハンドは回転軸をそろえれば、爪が引っかかりバルブを回して開けられる。塩谷さんは「力があり制御が簡単な点が有効だった」と説明する。
海外の大きなロボットはキャットウォークの下など狭い空間には入れなかった。WRSでプラント点検という舞台が示されたことでトリレンマを解く挑戦が広がった。その中で日本勢は活躍できるポテンシャルをもっている。
ニュースイッチオリジナル