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産業ガス国内最大手の大陽日酸、新コンセプト「トータルエレクトロニクス」が始まった

中国・上海に“司令塔”、顧客の生産計画に即応
産業ガス国内最大手の大陽日酸、新コンセプト「トータルエレクトロニクス」が始まった

生産能力を増強中の米子会社の韓国工場(韓国・牙山市)

 大陽日酸は2020年度までの4カ年の中期経営計画で、半導体大手と一元的に取引するコンセプト「トータルエレクトロニクス」を始動した。設備投資の中心となる中国・上海に“司令塔”を置き、グループ全体で顧客サポートや製品開発、最適なサプライチェーンマネジメントを提供する。顧客の生産計画に即応するとともに、潜在ニーズの早期把握によって差別化。競争力に磨きをかける。

 新コンセプトは材料ガスや供給設備など部門ごとだった対応を見直し、使用量の分析から製品開発、調達、配送、価格設定などの機能を集約したものだ。弱点だった一枚岩でのアプローチが可能になり、あらゆる商材を戦略的に訴求する体制が完成した。短納期の安定供給とも両立する。野村徹事業開発部長は「情報の流れがスムーズになり、顧客の動きが見えやすくなった」と手応えを示す。

 大陽日酸が供給するのは、ジボランやフルオロメタンといった特殊材料ガスだ。半導体の回路形成や表面洗浄に使われる。情報の流通量が急増する中、メモリー各社では積層構造にして記憶容量を高める3次元(3D)NAND型フラッシュメモリーや立体構造トランジスタ(FinFET)の需要が活性化。併せて高純度・高精度な特殊材料ガスの需要も拡大している。

 特に中国では、半導体向けの一段増が見込める。中国での半導体投資はこれまで、米インテルや韓国サムスン電子、台湾TSMCなどの外資がけん引してきた。ただ近年は、半導体産業の育成を掲げる中国政府が投資を喚起。18年度以降をめどに、政府の後押しを受けた中芯國際集成電路製造(SMIC)や福建省晋華集成電路(JHICC)、上海華力微電子(HLMC)など中国資本の半導体工場も立ち上がってくる見通しだ。

 これを受け、大陽日酸は韓国と中国で特殊材料ガスの生産増強に着手。韓国では米子会社の工場で合成・精製設備を増設しているほか、30億―40億円を投じて中国・江蘇省に新工場を建設中だ。特殊材料ガスの工場としては日本と米国、韓国に続き4カ国目で、ジボランの合成充填やフルオロメタンの精製充填設備、混合ガスの充填と容器の整備機能を設ける。19年1月にも稼働する計画だ。

 中国生産を決めた背景には、中長期で確実に需要を取り込みたい思惑もある。中国政府はかねて、周辺部材の輸入に優遇措置を講じることで半導体産業を育成してきた。それが「ここにきて“中国産”にこだわる動きを強めている」(野村部長)。輸入への規制が厳しくなる前に現地での供給力を確立し、政策に左右されない下地を整える考えだ。
(文・堀田創平)
日刊工業新聞2018年8月1日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
中国には欧米の産業ガス大手も進出しているが、ガスを輸入して充填・供給するのが主流。大陽日酸が競合に先駆けて合成・精製機能を備える意味は大きい。中国資本の産業ガス企業も出てきているが、大陽日酸は世界で同じ品質の特殊材料ガスを生産・供給できる優位性を強調する。 (日刊工業新聞社・堀田創平)

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