大陽日酸、ミャンマーに産業ガス工場。海外メジャーの間隙を縫う

M&Aも積極化。海外売上高目標5割も射程に

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大陽日酸は東南アジア市場開拓を加速(既存の現地法人プラント)
 大陽日酸はミャンマーに産業ガスの工場を新設し、2018年1月をめどに稼働する。投資額は約1130万ドル(約11億5000万円)。経済開放政策に転じたミャンマーは15年度の実質国内総生産(GDP)成長率が7%と著しく、自動車や化学など製造業の発展が見込める。日系企業も進出しており、海外の産業ガスメジャーに先駆けて現地での供給力を高めて競争優位に立つ。30年度に売上高10億円程度を目指す。

 シンガポールの地域持ち株会社を通じ、11月にミャンマー法人を設立する。ヤンゴンの南東約20キロメートルに日本とミャンマーの官民が開発した工業団地「ティラワ経済特区(SEZ)」に工場を設置する。

 工場には中規模の空気分離装置(ASU)1基を近隣国の既存拠点から移すほか、充填設備なども整備。日系自動車・部品メーカー、現地の金属加工・肥料メーカーなどに供給する。ミャンマーでは民間で初めてのASUになるとみられ、酸素製造装置に比べ高い純度を訴求する。

 大陽日酸は東南アジアではフィリピンなど6カ国で、プラントを稼働。現地企業と合弁を組み、相手の販売網を活用してガスを供給している。ただミャンマーの産業ガス市場は足元で年間約20億円規模と成長途上。このため単独で品質・保安面の担保と拡販をする。

 ティラワ工業団地はミャンマー初の経済特区。進出を決めた50社のうち、スズキや王子ホールディングス(HD)、ワコールHDなど日系企業が半分を占める。産業ガスでは岩谷産業も進出を表明している。

アナリストから見た成長性


日刊工業新聞2016年8月4日


 大陽日酸は、窒素や酸素などを生産・販売する産業ガス市場では国内シェア約4割を握るトップメーカー、世界でも欧州2社や米国2社に次ぐシェア約6%と5位の実力。一方、特殊ガスにも強みを持ち、特に半導体・液晶・太陽電池など電子向けのガスや機器ではフランスや米国の企業とともに世界3強の一角を占める。

 2004年に鉄鋼向けガス首位の日本酸素と、半導体ガスなどの電子向け首位の大陽東洋酸素が合併して発足した。14年11月には株式公開買い付け(TOB)の結果、三菱ケミカルホールディングスの連結子会社となった。経営基盤の安定化に伴い、国内外で積極的にM&Aを推進し、事業の規模と領域を拡大中である。

 最近では世界最大手の仏エア・リキードから米国で22基のガス製造設備や営業拠点を約550億円で買収すると正式に発表。世界の産業ガス市場は約860億ドル(約9兆円)で米国が最大市場だけに、今回の買収により米国売上高は単純合算で約15%増え、年2億6300万ドル(約270億円)の増収効果を見込む。

 ガス需要が旺盛な米国事業を拡大することで、海外売上高比率を22年度には50%以上(14年度は35%)に高める計画が視野に入る。

 米国ではカリフォルニア州に空気から酸素や窒素、アルゴンといったガスを作り出す19基目の空気分離装置を新設する。17年に完成の予定だが投資額は数十億円とみられ、周辺の食品や鉄鋼、電子部品工場にガスを供給する。

 例えば食品産業向けのガスは冷凍食品を凍結させたり、酸化を防ぐため袋に充填したりする窒素を供給する。また、鉄鋼向けは炉の中で火力を高めるのに必要な酸素を供給。電子部品向けは製造工程で必要な窒素を送る。さらにシェールガスの採掘に使う窒素などを供給する工場建設のほか、豪州や東南アジア地域へ積極的に展開する。

 足元の業績は好調。16年3月期は国内のガス販売は苦戦したが利益は原料安の効果と電子材料ガスの好調と円安、事業買収などの効果で伸長した。17年3月期も買収した米子会社の戦力化・販路活用などにも努め、業績を伸ばす考え。アジア事業の規模拡大に伴い好調が見込まれている。
(文=清水秀和)
証券アナリスト兼IMSアセットマネジメント社長。年間約150社を取材し、延べ5000社の取材実績を持つ。成長する技術系製造業の企業発掘を専門としており、身近で分かりやすい解説に定評がある。株式公開予定企業育成の実務経験を生かし、東北大学や日本大学などでベンチャー起業論の講演も多数。

 

日刊工業新聞2016年8月30日

COMMENT

ミャンマーに目を付けた最大の理由は、仏エア・リキードや独リンデなど“海外メジャー”が進出していないから。現地メーカーへの出資などで出方を探るメジャーに先行して供給能力を持ち、成長途上にある需要をいち早く取り込む戦略だ。国内市場にもう一段の伸びが見込めない中、成長のエンジンは海外に求めるほかない。米国ではエア・リキードから生産設備や営業拠点を買収し存在感を一気に向上。東南アジアでもここ数年は積極投資を続けている。海外売上高比率は15年度に4割強と、目標とする5割も近い。成長の好循環を生み出せれば、メジャーとの距離も縮まる。 (日刊工業新聞第二産業部・堀田創平)

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