スマート化で発注が増えた事例も。スマート工場はものづくりに何をもたらす?
パネルディスカッション<ニュースイッチ×ウフル presents>
2018年6月2日、日刊工業新聞社主催のスマートファクトリーJapan2018にて、「Connected Industriesを見据えたスマートファクトリーとは」と題しパネルディスカッションが行われた。スマートファクトリーに取り組む先駆的なベンダー2社と事業会社2社が、
・各社の特徴や状況
・取り組んだきっかけや問題意識
・スマート化のメリット
・スマート工場の今後の可能性
などを討議した。
モデレータは、八子知礼氏(ウフルの専務執行役員でIoTイノベーションセンター長)。
パネリストは、
・清威人氏(エイムネクスト代表取締役)
・福本勲氏(東芝デジタルソリューションズのインダストリアルソリューション事業部担当部長)
・青能敏雄氏(ジェイテクトの工作機械メカトロ事業本部技監)
・加藤充氏(デンソー生産革新センター生産技術本部部長)
の4名。
ー 各社のスマートファクトリーの状況を教えてください。
加藤「自社のこだわりや強みを伸ばすために取り組む。我々の強みの一つは、現場の人。情報JIT(Just In Time)、つまり情報を得るべき人にその情報を与え、人を賢くする。それを今度は機械に覚えさせたり改善につなげたりする。それを人にフィードバックする。このサイクルを回していく。開発・設計、生産、次期製品開発など様々な工程で人と機械が共創し、成長し続けるリーン(Lean:無駄のない)なモノづくりを目指している」
福本「東芝グループが社会インフラや製造現場などの事業領域で培ってきた幅広い経験やノウハウを結集させたIoTアーキテクチャー「SPINEX (スパインエックス)」を提供し、ものづくりのソリューションを提供している。東芝グループ内の取り組みの例としては、東芝メモリの四日市工場で製造工程や生産設備で得られる一日あたり20億件のデータを人工知能で活用している。単体の工場で見たスマートファクトリーの規模は世界でも最大規模のものだと思われる」
清「工場経営の最適化は、スマートファクトリーだけでは実現しないと考えている。ものづくりの全行程をカバーしつつ、マネジメントシステムや人材育成を含めたサポートなど、トータルでサポートする。将来的には社会全体がスマート化すると考えており、農業や観光などのスマートシステム同士の連携を見据えた実証実験を推進中だ」
青能「総合生産ラインビルダーとして、人が主役のスマートファクトリーを掲げている。IoTではなくIoE(インターネット オブ エブリシング)。モノとモノがつながるだけではなく、人もつながる。人と設備が協調し、データの見える化や知恵の共有に基づいた改善のサイクルを通し現場力や生産性を向上させ、人が成長する。働く人も含めてスマートファクトリーと捉えている」
ー スマートファクトリーに取り組むことになったきっかけを教えてください。経営や製造現場でどのような課題があったのか、もしくは顧客からどのような要望があったのでしょうか?
福本「ドイツのインダストリー4.0や中国の中国製造2025といった海外勢の脅威からだ。コンセプトを掲げるだけでなく、実際に動いている。日本よりも先にスマートファクトリーに着手していることへの危機感があった」
加藤「当社としては大きく二つある。一つはもっと生産性を上げたいという純粋で現場的な思い。もう一つは日本と海外の工場のギャップを埋めたいという経営的な思い。デンソーは世界に130の工場がある。海外にたくさんの工場があると、オペレーションがなかなかうまくいかない。スマートファクトリーという視点からオペレーションがうまくいかない原因を挙げれば、“情報に偏りがある”ということだろう。日本はグローバルマザーとして情報が蓄積されているが、海外工場は情報が少なく、ギャップが大きい。そのような状況で、日本と海外で同じ生産性を保つことに無理があった」
清「生産管理や工場経営をゼロベースで作ってきた人たちが世代交代でいなくなってしまった。世代交代がうまくいかず、知識や経験の断絶が起きてしまっている」
「また、ベンダーとして色々な工場を見てきて、工場で働く皆さんがなぜこんなに忙しくしているのか、という疑問があった。ISOの取り組みなどにおいても、ずさんな運用がなされて無駄な書類が増える一方になっている状況を見て、このままだと日本のものづくりはおかしくなってしまうのではないかと危機感を抱いた。人ではなく、システムで解決しなければならないと思った」
青能「ラインビルダーとして顧客にどのような価値を提供するかという問いがあった。工場には色々なメーカーの設備があり、それらの情報をつなげて生産性向上に貢献する必要があった。2年前にIoE推進室を立ち上げた」
ー スマート工場に取り組んだことで、どのような効果がありましたか?
福本「射出成形機の事例でいうと、不良予兆を察知できるようになり前後工程に良い効果が波及したこと。従来、不良率は作業者の熟練度に依存していた。AIで熟練者の知見を習得し共有した。自工程の品質向上だけではなく、後工程への悪影響も縮小する。全体がきちんと最適化をしていくような取り組みができるようになった」
加藤「IoTやスマート化に関わるメンバーで問題の共有ができ、自律的に解決策を模索するようになった。先に述べたように、国内工場と海外工場との情報や生産性のギャップを埋めることが重要な課題だった。世界中のメンバーで「何をやるの?」というところから始めた。三ヶ月に一度集まる会議では、ドイツやアメリカなどからIoT系のソリューションが持ち寄られる。まだまだアナログな部分があるが、フェイスツーフェイス、人と人がつながることで、問題を共有できたことは大きい。IoTで情報をつなげようという試みによって、まず人がつながった」
青能「現場以外の人の改善意識が高まった。IoE推進室を立ち上げたことで、例えば営業部門の意識改善ができた。データの見える化と共有によって、現場以外の人の意識が変わった」
清「色々なプロジェクトに関わって一番面白いと思ったことは、売り上げが上がったことだ。ある自動車のサプライヤーは、スマート化によって、供給先の海外メーカーに対して意思決定や情報提供を速く正確に行えるようになったことで発注が増えた。海外自動車メーカーにとって、日本のサプライヤーとの取引は情報のやり取りの遅さなどの面で苦痛だという声もある。情報の見える化とサプライチェーンとの情報共有によってそこを解決できた」
ー スマート化によって、ものづくりはどのように変わっていくでしょうか? 会社同士や他の産業同士でつながっていくことの可能性についても教えてください。
清「ものづくりの中でみれば、JITが究極になっていくのではないか。時間や在庫の無駄がさらになくなっていくだろう。より広い視点で見れば、産業の枠を超えて、社会全体で色々なシェアが進むのではないか」
加藤「“つながる”ということの目的は二つあって、一つは管理・監視すること、もう一つはクリエイトすること。会社同士がつながる時にも単にシステム的につながるだけでは意味がなく、バリューが生まれなければならない。知識や人、現場がいかにつながるかが重要。そのためには自社の知識や人をいかに磨くかである。その部分が自社の差別化となり、他社とつながる意味や価値が生まれてくる」
福本「第四の経営資源であるデータをいかに使っていくか、さらには“つながる場”を作って新たな経済価値を生み出すかが求められている。例えばコマツのコムトラックスはユーザーから利用状況などの情報を得ている。その情報がサービス向上や製品の改善などになどに役立っている。お客様視点のオペレーションの最適化が進むだろう」
青能「我々は人が主役のIoTを掲げている。情報の共有は人の成長にも良い影響を及ぼすだろう。特に製造業などでは、データの共有に後ろ向きな企業も確かに存在するし当然守るべき情報は守る必要があるが、知識をつなげより価値の高い知識にする必要がある」
ー 最後に、スマートファクトリーを検討している聴講者へのメッセージをお願いします。
青能「理想のスマートファクトリーは企業の数だけあると思う。まず、自分たちの工場をどのようにしたいのかをはっきりさせる。実現するためには、自社の資源ではどうしても限界がある。ぜひ地球規模で取り組んでほしい」
加藤「“何がスマート工場なのか?”の答えは自分たちで決めて良いのではないか。デンソーでは”自分たちの強みを伸ばすこと”と定義している。自分たちが何をしたいのかを明確化して、道具として使っていくということが重要だ」
福本「色々なパートナーと繋がって、日本の製造業を発展できるようになったことに期待している」
清「マーケットのニーズをまず捉えること。その上で、スマート工場でいかに対応するのかを考えていかねばならない」
パメルディカッションのまとめ
八子「スマート工場に正解はない。各業界の置かれた環境も取り組みも多様だ。また、スマートといっても、機械やデータだけを指しているのではなく、人の成長にこだわる。とはいえ、属人的なものについてはAIで置き換えていく。プロセスやガバナンスの効率を追い求めるだけではなく、価値をいかに生み出していくかに焦点が当たっている。価値の源泉は知識であり、知識は人から生まれる。各人の考えやノウハウを集め、うまく活用することで、人が成長し、機械も賢くなる。そのサイクルを続けていくことこそが、スマートファクトリーで重要なことなのだろう」
・各社の特徴や状況
・取り組んだきっかけや問題意識
・スマート化のメリット
・スマート工場の今後の可能性
などを討議した。
モデレータは、八子知礼氏(ウフルの専務執行役員でIoTイノベーションセンター長)。
パネリストは、
・清威人氏(エイムネクスト代表取締役)
・福本勲氏(東芝デジタルソリューションズのインダストリアルソリューション事業部担当部長)
・青能敏雄氏(ジェイテクトの工作機械メカトロ事業本部技監)
・加藤充氏(デンソー生産革新センター生産技術本部部長)
の4名。
(以下敬称略、文・平川 透)
ー 各社のスマートファクトリーの状況を教えてください。
加藤「自社のこだわりや強みを伸ばすために取り組む。我々の強みの一つは、現場の人。情報JIT(Just In Time)、つまり情報を得るべき人にその情報を与え、人を賢くする。それを今度は機械に覚えさせたり改善につなげたりする。それを人にフィードバックする。このサイクルを回していく。開発・設計、生産、次期製品開発など様々な工程で人と機械が共創し、成長し続けるリーン(Lean:無駄のない)なモノづくりを目指している」
福本「東芝グループが社会インフラや製造現場などの事業領域で培ってきた幅広い経験やノウハウを結集させたIoTアーキテクチャー「SPINEX (スパインエックス)」を提供し、ものづくりのソリューションを提供している。東芝グループ内の取り組みの例としては、東芝メモリの四日市工場で製造工程や生産設備で得られる一日あたり20億件のデータを人工知能で活用している。単体の工場で見たスマートファクトリーの規模は世界でも最大規模のものだと思われる」
清「工場経営の最適化は、スマートファクトリーだけでは実現しないと考えている。ものづくりの全行程をカバーしつつ、マネジメントシステムや人材育成を含めたサポートなど、トータルでサポートする。将来的には社会全体がスマート化すると考えており、農業や観光などのスマートシステム同士の連携を見据えた実証実験を推進中だ」
青能「総合生産ラインビルダーとして、人が主役のスマートファクトリーを掲げている。IoTではなくIoE(インターネット オブ エブリシング)。モノとモノがつながるだけではなく、人もつながる。人と設備が協調し、データの見える化や知恵の共有に基づいた改善のサイクルを通し現場力や生産性を向上させ、人が成長する。働く人も含めてスマートファクトリーと捉えている」
ー スマートファクトリーに取り組むことになったきっかけを教えてください。経営や製造現場でどのような課題があったのか、もしくは顧客からどのような要望があったのでしょうか?
福本「ドイツのインダストリー4.0や中国の中国製造2025といった海外勢の脅威からだ。コンセプトを掲げるだけでなく、実際に動いている。日本よりも先にスマートファクトリーに着手していることへの危機感があった」
加藤「当社としては大きく二つある。一つはもっと生産性を上げたいという純粋で現場的な思い。もう一つは日本と海外の工場のギャップを埋めたいという経営的な思い。デンソーは世界に130の工場がある。海外にたくさんの工場があると、オペレーションがなかなかうまくいかない。スマートファクトリーという視点からオペレーションがうまくいかない原因を挙げれば、“情報に偏りがある”ということだろう。日本はグローバルマザーとして情報が蓄積されているが、海外工場は情報が少なく、ギャップが大きい。そのような状況で、日本と海外で同じ生産性を保つことに無理があった」
清「生産管理や工場経営をゼロベースで作ってきた人たちが世代交代でいなくなってしまった。世代交代がうまくいかず、知識や経験の断絶が起きてしまっている」
「また、ベンダーとして色々な工場を見てきて、工場で働く皆さんがなぜこんなに忙しくしているのか、という疑問があった。ISOの取り組みなどにおいても、ずさんな運用がなされて無駄な書類が増える一方になっている状況を見て、このままだと日本のものづくりはおかしくなってしまうのではないかと危機感を抱いた。人ではなく、システムで解決しなければならないと思った」
青能「ラインビルダーとして顧客にどのような価値を提供するかという問いがあった。工場には色々なメーカーの設備があり、それらの情報をつなげて生産性向上に貢献する必要があった。2年前にIoE推進室を立ち上げた」
ー スマート工場に取り組んだことで、どのような効果がありましたか?
福本「射出成形機の事例でいうと、不良予兆を察知できるようになり前後工程に良い効果が波及したこと。従来、不良率は作業者の熟練度に依存していた。AIで熟練者の知見を習得し共有した。自工程の品質向上だけではなく、後工程への悪影響も縮小する。全体がきちんと最適化をしていくような取り組みができるようになった」
加藤「IoTやスマート化に関わるメンバーで問題の共有ができ、自律的に解決策を模索するようになった。先に述べたように、国内工場と海外工場との情報や生産性のギャップを埋めることが重要な課題だった。世界中のメンバーで「何をやるの?」というところから始めた。三ヶ月に一度集まる会議では、ドイツやアメリカなどからIoT系のソリューションが持ち寄られる。まだまだアナログな部分があるが、フェイスツーフェイス、人と人がつながることで、問題を共有できたことは大きい。IoTで情報をつなげようという試みによって、まず人がつながった」
青能「現場以外の人の改善意識が高まった。IoE推進室を立ち上げたことで、例えば営業部門の意識改善ができた。データの見える化と共有によって、現場以外の人の意識が変わった」
清「色々なプロジェクトに関わって一番面白いと思ったことは、売り上げが上がったことだ。ある自動車のサプライヤーは、スマート化によって、供給先の海外メーカーに対して意思決定や情報提供を速く正確に行えるようになったことで発注が増えた。海外自動車メーカーにとって、日本のサプライヤーとの取引は情報のやり取りの遅さなどの面で苦痛だという声もある。情報の見える化とサプライチェーンとの情報共有によってそこを解決できた」
ー スマート化によって、ものづくりはどのように変わっていくでしょうか? 会社同士や他の産業同士でつながっていくことの可能性についても教えてください。
清「ものづくりの中でみれば、JITが究極になっていくのではないか。時間や在庫の無駄がさらになくなっていくだろう。より広い視点で見れば、産業の枠を超えて、社会全体で色々なシェアが進むのではないか」
加藤「“つながる”ということの目的は二つあって、一つは管理・監視すること、もう一つはクリエイトすること。会社同士がつながる時にも単にシステム的につながるだけでは意味がなく、バリューが生まれなければならない。知識や人、現場がいかにつながるかが重要。そのためには自社の知識や人をいかに磨くかである。その部分が自社の差別化となり、他社とつながる意味や価値が生まれてくる」
福本「第四の経営資源であるデータをいかに使っていくか、さらには“つながる場”を作って新たな経済価値を生み出すかが求められている。例えばコマツのコムトラックスはユーザーから利用状況などの情報を得ている。その情報がサービス向上や製品の改善などになどに役立っている。お客様視点のオペレーションの最適化が進むだろう」
青能「我々は人が主役のIoTを掲げている。情報の共有は人の成長にも良い影響を及ぼすだろう。特に製造業などでは、データの共有に後ろ向きな企業も確かに存在するし当然守るべき情報は守る必要があるが、知識をつなげより価値の高い知識にする必要がある」
ー 最後に、スマートファクトリーを検討している聴講者へのメッセージをお願いします。
青能「理想のスマートファクトリーは企業の数だけあると思う。まず、自分たちの工場をどのようにしたいのかをはっきりさせる。実現するためには、自社の資源ではどうしても限界がある。ぜひ地球規模で取り組んでほしい」
加藤「“何がスマート工場なのか?”の答えは自分たちで決めて良いのではないか。デンソーでは”自分たちの強みを伸ばすこと”と定義している。自分たちが何をしたいのかを明確化して、道具として使っていくということが重要だ」
福本「色々なパートナーと繋がって、日本の製造業を発展できるようになったことに期待している」
清「マーケットのニーズをまず捉えること。その上で、スマート工場でいかに対応するのかを考えていかねばならない」
パメルディカッションのまとめ
八子「スマート工場に正解はない。各業界の置かれた環境も取り組みも多様だ。また、スマートといっても、機械やデータだけを指しているのではなく、人の成長にこだわる。とはいえ、属人的なものについてはAIで置き換えていく。プロセスやガバナンスの効率を追い求めるだけではなく、価値をいかに生み出していくかに焦点が当たっている。価値の源泉は知識であり、知識は人から生まれる。各人の考えやノウハウを集め、うまく活用することで、人が成長し、機械も賢くなる。そのサイクルを続けていくことこそが、スマートファクトリーで重要なことなのだろう」
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