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トヨタは「タクシー」からどこまでビジネスを広げるのか

「モビリティー・エコノミー」のプラットフォームを握る
トヨタは「タクシー」からどこまでビジネスを広げるのか

豊田章男社長と「e―パレット コンセプト」

 トヨタ自動車はタクシー配車アプリのJapanTaxi(東京都千代田区)、KDDI、アクセンチュアの4社は、人工知能(AI)を活用したタクシー需要予測システムを開発した。過去の運行実績やスマートフォンの位置情報などを基に30分単位で需要を予測し、乗車率の向上や売り上げの拡大につなげる。2月から都内で数台のタクシーに試験導入しており2018年度の商用化を目指す。

 トヨタは日本交通(東京都千代田区)グループのジャパンタクシーに出資するなどタクシー業界との協業を加速している。その先に見据えるものとは?

 トヨタが今年1月、米ラスベガスの「CES2018」で発表した電気自動車(EV)「eパレット・コンセプト」。完全自動運転機能を搭載し、箱型で床が低く大きな室内空間を持つこの商用EVコンセプトカーは、単に走って人やモノを運ぶだけではない。自動運転車と車両空間をさまざまなビジネスと組み合わせ、「モビリティー・エコノミー」(移動手段経済)という新しい産業分野での物理的なプラットフォーム(基盤)を担うものだ。

 トヨタのeパレットでは、事業の用途に応じた設備を搭載しながら、ネット通販の商品配送・宅配から、無人タクシーやライドシェア(相乗り)、移動店舗、レストラン、オフィス、ホテルと、さまざまな業務への展開を想定。米アマゾン・ドット・コムや米ウーバー、中国配車サービス大手の滴滴出行(ディディチューシン)、米ピザハット、マツダの5社と提携し、20年代前半に米国で実証実験を始める。20年の東京五輪・パラリンピックでは、一部の技術を活用した車両を移動手段として提供するという。

 豊田章男社長は「これまでのクルマの概念を超え、お客様にサービスを含めた新たな価値が提供できる未来のモビリティー社会の実現に向けた大きな一歩」と話す。これまでのようにより良いクルマを作って顧客に提供するだけでなく、それを使ったサービスの提供が今後の成長には不可欠との認識を示した。

 実際、自動運転機能を使ったサービス事業の比重が近い将来、急速に増すとの予測もある。インテルなどが17年6月にまとめたレポートでは、自動運転車が将来生み出すモノやサービスへの経済効果を「パッセンジャー・エコノミー」(乗客経済)と名付け、2035年の8000億ドル(約90兆円)から、2050年には7兆ドル(約791兆円)規模にまで拡大するとの試算もある。

 そこでは、自動運転車による移動手段を事業者や個人に提供する「モビリティー・アズ・ア・サービス(MaaS)」という事業形態が登場。特に個人向けでは、それまで運転に費やしていた時間を別のことに使ったり、移動中に乗客にサービスを提供したりする新しいビジネスが生まれ、現在注目を浴びる「シェアリングエコノミー」の2倍以上の経済規模になると予測している。

 ただ、こうした商用分野を狙っているのはトヨタだけではない。そのためか、トヨタは5社の提携相手とともにMaaSの実用化を急ぐとともに、eパレットに使われる車両制御インターフェースを自動運転制御ソフトウエアやカメラ、センサーなど自動運転関連のソフト・ハードを手がける開発会社に公開、仲間づくりを進める方針でいる。

 日本ではライドシェア(相乗り)サービスが規制される中、タクシーの配車サービスを巡る競争が激化している。ただそれは表層的な部分に過ぎない。人々の車への価値観が「所有」から「利用」へシフトする中、トヨタを始めとする自動車メーカーは移動だけにとどまらない新たな乗車体験を味わえるサービスを実現できるかも、大きな競走軸になってきている。
日刊工業新聞2018年1月9日/3月12日の記事に加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
 IT側での強敵はグーグルだろう。自動運転車の完成車開発をあきらめたとはいえ、AIを含めた自動運転のコア技術と豊富な公道走行データを持ち、自動運転車部門のウェイモはFCAやホンダ、さらにはウーバーのライバルでもある米リフトとも提携済み。グーグル自体、ネット通販や広告、モバイル決済のプラットフォームを押さえていることから、モビリティー・エコノミーでも自動運転システム込みでのプラットフォーム獲得を狙ってくるだろう。

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