なぜ会津若松は多くのハイテク企業が集積する「注目の場」になったのか?
「IoT×地方創生 会津若松からの報告」
福島県会津若松市はICT(情報通信技術)産業の育成を進め、地域創生のモデル都市を目指している。市は街を実証の場として提供し、多くのハイテク企業が実証事業に参入している。10月5日、CEATEC JAPAN 2017内で開催されたニュースイッチ主催のパネルディスカッションに、会津若松のスマートシティ化に取り組む各分野の代表者4名が登壇。産学官民が一体となって取り組むこの壮大なプロジェクトはどのようにして生まれたのか。会津若松が目指すところについて語ってもらった。
【登壇者】
●会津若松市企画調整課 山崎彬美氏
●会津大学産学イノベーションセンター教授 石橋史朗氏
●アクセンチェア(株)戦略コンサルティング本部シニア・マネジャー 藤井篤之氏
●(株)ルートレック・ネットワークス代表取締役 佐々木伸一氏
三年前から「地方創生」という言葉がひとり歩きを始めた。ゆるキャラ、工場誘致、地域のPR動画など、各地で似たような施策が打ち出された。しかし、地方都市の根本的な課題は、雇用不足による人口流出、少子高齢化による人口構造の歪みである。観光客を増やしても“居住する都市”としての魅力は一向に上がらない。工場を誘致してもハイスキルな人材の働き口には成り得ず、彼らは首都圏に流れてしまう。
山崎「会津若松市も、少子高齢化、雇用創出力の低下など、地方都市の典型的な課題を抱えています。日本で初めてICT教育に特化した県立大学である会津大学には優秀な学生さんが数多く在籍していますが、現状では卒業生の8割が県外に就職してしまいます」
藤井「従来の地方における産業移転というと、工場やコールセンターなどでした。そうするとハイスキルな人材が働く場所は結局首都圏で、優秀な若者はどんどん県外に出て行ってしまいます。バランス良く雇用創出力を上げるためには、トップからボトムまで全ての層を含む産業を“まるごと”地域で育てていく必要があります。そこで目を付けたのがICT産業です。ICTなら場所が東京である必要はありませんから」
山崎「ハード面ではICTオフィスのビルの整備を進めています。ICT関連企業の集積地になることで会津大学の学生など若者が地域に定着できる環境を作ります。また会津若松に集まった企業が、市のオープンデータを用い、住民の暮らしを便利にするアプリケーションを開発することにより、ソフト面でも魅力的な都市になると思っています」
藤井「私たちは、会津若松全体を実証実験の場にしようとしています。世界で通用する新しい技術、他の地方にも展開できる面白い仕掛けを会津若松の地で実験していこうということです。実験しやすい環境にするため人材育成に力を入れています。そして会津若松にどんどんプロジェクトを誘致することによって企業が集積し、実証事業のデータがたまり、データとしての価値も上がっていきます。データが組み合わさって新しいサービスも生まれます。このサイクルを回していくことによって、大きなデータ産業が会津若松を中心に広がるはずです」
藤井「実際にプロジェクトを進めているのは『スマートシティ推進協議会』という団体です。ここには私たちアクセンチュアや市、会津大学、地元の会社、富士通さんのようなICT関連企業が入っています。この中で、どのような事業をやるのか、どう人材を育成するかなど、毎回会議をしながら進めています」
パネリストの方々の話を聞いていると、会津大学への期待の大きさが伺える。会津大学はコンピューターサイエンス領域で学生数全国一位。スーパーグローバル大学にも採択されている。まさに会津若松のICT産業の根幹を担う教育機関は、課題解決型のアナリティクス講座に力を入れている。
石橋「市がデータを公開してくれているおかげで、学生は地元の課題を踏まえた“リアル“なデータ分析の実習ができています。一つの例が『消火栓の位置情報アプリ』です。会津若松市は雪が多く積もります。積雪時に消火栓が埋まってしまい、地元消防団が消火栓を発見するのに時間がかかるという課題がありました。そこで会津大学が主導するオープンイノベーション会議で発足した産学官組織が、市のデータを活用して即座に消火栓の位置が分かるアプリを開発しました。データを分析するだけではなく、データをどのようにして課題解決に活かすかを考えることが重要です。実際に会津若松が抱える“リアルな”課題を考えることができる、優れた人材育成の場となっています」
積雪時に消火栓の位置が分からないという問題は、積雪が多い他の地域でも課題となっている。すでにいくつかの自治体でも導入が検討されているそうだ。他にも次々と実証事業が実用の段階に入ってきている。
実用の段階にある事業の一つが「会津若松+」というポータルサイトだ。市は情報発信の比重を従来のホームページから会津若松+へ移し、運営(スマートシティ推進協議会主体)を広告収入などで自立できるようにする。住民が登録すると個人用ページが用意され、属性に合った情報を届ける。子育て中なら児童手当の情報が目立つ位置に表示するなど、一人ひとりに必要とされる情報を配信する。
機能としては、母子健康手帳の電子化、学校情報サービスなどがある。また、日本郵便との提携によって、市民はネット上にマイポストを作り、行政からの様々な情報を受けとることができる。
藤井「会津若松+の魅力は、ポータルサイトで配信された記事に対して市民がコメントを書けることです。街の改善点をコメントとして書けば、市の担当がそのコメントに対応します。会津若松+の中で少しずつ、市と住民の間にインタラクティブな交流が生まれつつあると感じています」
山崎「アプリの中で特に好評なのが『除雪車ナビ』です。これは除雪車が今どこを運行しているのか、この先どこを運行する予定なのかが分かるものです。除雪車の運行予定が分かれば外出の予定を立てやすいと市民の方から満足の声をいただいています。この先、『私の家の近くはいつも除雪が遅い』などの声をデータとして集めて、除雪の効率を上げるところにまで発展させていきたいと思っています」
藤井「最終的には、会津若松における市民向けの取り組みの入り口をすべてこのポータルサイトに集約することが目標です。母子健康手帳も学校情報もすべてここのIDを取っていただいて管理していくことで、市民の情報をシームレスにつなげて、いろんな便利な情報を配信していく。行政もその情報を市政に活かすことができます。行政がこのような事業を進めることは全国的に見ても新しい取り組みだと思うので非常に期待しています」
<次のページ:農業分野でも実証進む>
【登壇者】
●会津若松市企画調整課 山崎彬美氏
●会津大学産学イノベーションセンター教授 石橋史朗氏
●アクセンチェア(株)戦略コンサルティング本部シニア・マネジャー 藤井篤之氏
●(株)ルートレック・ネットワークス代表取締役 佐々木伸一氏
人材流出・少子高齢化―地方都市の課題
三年前から「地方創生」という言葉がひとり歩きを始めた。ゆるキャラ、工場誘致、地域のPR動画など、各地で似たような施策が打ち出された。しかし、地方都市の根本的な課題は、雇用不足による人口流出、少子高齢化による人口構造の歪みである。観光客を増やしても“居住する都市”としての魅力は一向に上がらない。工場を誘致してもハイスキルな人材の働き口には成り得ず、彼らは首都圏に流れてしまう。
山崎「会津若松市も、少子高齢化、雇用創出力の低下など、地方都市の典型的な課題を抱えています。日本で初めてICT教育に特化した県立大学である会津大学には優秀な学生さんが数多く在籍していますが、現状では卒業生の8割が県外に就職してしまいます」
藤井「従来の地方における産業移転というと、工場やコールセンターなどでした。そうするとハイスキルな人材が働く場所は結局首都圏で、優秀な若者はどんどん県外に出て行ってしまいます。バランス良く雇用創出力を上げるためには、トップからボトムまで全ての層を含む産業を“まるごと”地域で育てていく必要があります。そこで目を付けたのがICT産業です。ICTなら場所が東京である必要はありませんから」
山崎「ハード面ではICTオフィスのビルの整備を進めています。ICT関連企業の集積地になることで会津大学の学生など若者が地域に定着できる環境を作ります。また会津若松に集まった企業が、市のオープンデータを用い、住民の暮らしを便利にするアプリケーションを開発することにより、ソフト面でも魅力的な都市になると思っています」
会津若松をテストベッドに、データを集積する
藤井「私たちは、会津若松全体を実証実験の場にしようとしています。世界で通用する新しい技術、他の地方にも展開できる面白い仕掛けを会津若松の地で実験していこうということです。実験しやすい環境にするため人材育成に力を入れています。そして会津若松にどんどんプロジェクトを誘致することによって企業が集積し、実証事業のデータがたまり、データとしての価値も上がっていきます。データが組み合わさって新しいサービスも生まれます。このサイクルを回していくことによって、大きなデータ産業が会津若松を中心に広がるはずです」
藤井「実際にプロジェクトを進めているのは『スマートシティ推進協議会』という団体です。ここには私たちアクセンチュアや市、会津大学、地元の会社、富士通さんのようなICT関連企業が入っています。この中で、どのような事業をやるのか、どう人材を育成するかなど、毎回会議をしながら進めています」
人材育成を担う会津大学
パネリストの方々の話を聞いていると、会津大学への期待の大きさが伺える。会津大学はコンピューターサイエンス領域で学生数全国一位。スーパーグローバル大学にも採択されている。まさに会津若松のICT産業の根幹を担う教育機関は、課題解決型のアナリティクス講座に力を入れている。
石橋「市がデータを公開してくれているおかげで、学生は地元の課題を踏まえた“リアル“なデータ分析の実習ができています。一つの例が『消火栓の位置情報アプリ』です。会津若松市は雪が多く積もります。積雪時に消火栓が埋まってしまい、地元消防団が消火栓を発見するのに時間がかかるという課題がありました。そこで会津大学が主導するオープンイノベーション会議で発足した産学官組織が、市のデータを活用して即座に消火栓の位置が分かるアプリを開発しました。データを分析するだけではなく、データをどのようにして課題解決に活かすかを考えることが重要です。実際に会津若松が抱える“リアルな”課題を考えることができる、優れた人材育成の場となっています」
積雪時に消火栓の位置が分からないという問題は、積雪が多い他の地域でも課題となっている。すでにいくつかの自治体でも導入が検討されているそうだ。他にも次々と実証事業が実用の段階に入ってきている。
実証事業 ポータルサイト「会津若松+」
実用の段階にある事業の一つが「会津若松+」というポータルサイトだ。市は情報発信の比重を従来のホームページから会津若松+へ移し、運営(スマートシティ推進協議会主体)を広告収入などで自立できるようにする。住民が登録すると個人用ページが用意され、属性に合った情報を届ける。子育て中なら児童手当の情報が目立つ位置に表示するなど、一人ひとりに必要とされる情報を配信する。
機能としては、母子健康手帳の電子化、学校情報サービスなどがある。また、日本郵便との提携によって、市民はネット上にマイポストを作り、行政からの様々な情報を受けとることができる。
藤井「会津若松+の魅力は、ポータルサイトで配信された記事に対して市民がコメントを書けることです。街の改善点をコメントとして書けば、市の担当がそのコメントに対応します。会津若松+の中で少しずつ、市と住民の間にインタラクティブな交流が生まれつつあると感じています」
山崎「アプリの中で特に好評なのが『除雪車ナビ』です。これは除雪車が今どこを運行しているのか、この先どこを運行する予定なのかが分かるものです。除雪車の運行予定が分かれば外出の予定を立てやすいと市民の方から満足の声をいただいています。この先、『私の家の近くはいつも除雪が遅い』などの声をデータとして集めて、除雪の効率を上げるところにまで発展させていきたいと思っています」
藤井「最終的には、会津若松における市民向けの取り組みの入り口をすべてこのポータルサイトに集約することが目標です。母子健康手帳も学校情報もすべてここのIDを取っていただいて管理していくことで、市民の情報をシームレスにつなげて、いろんな便利な情報を配信していく。行政もその情報を市政に活かすことができます。行政がこのような事業を進めることは全国的に見ても新しい取り組みだと思うので非常に期待しています」
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