家事負担軽減のポイントは「手間」と「省力」のポイントを決めること

変わりゆく?家事 #7 インタビュー 野村総合研究所 武田佳奈氏

“朝起きて、朝食が自然と用意されていて、食べ終わった食器が勝手に下げられて、いつの間にか洗濯されて畳まれた下着と綺麗にアイロンがけされたシャツとクリーニングされたスーツを着て、磨かれた靴を履いて、仕事に出かけてきた”タイプの読者の皆さん。  家事をしていますか? 2018年に共働き世帯が専業主婦世帯数の2倍となり(※)、家事の家庭内シェアや家事負担軽減が必要不可欠な社会になりつつある。今まで主に家事を担っていた女性たちの現状や、家事負担軽減のためのサービス利用はどのように進んでいるのか。  女性のキャリア形成や家事代行サービスなどについて調査を進めている野村総合研究所未来創発センター 未来価値研究室の武田佳奈氏に状況を聞いた。 ―働く女性は増えていますが、その働き方やライフスタイルは多様化しています。  いままでは、仕事に重きを置く「バリキャリ」と、家庭に重きを置く「ゆるキャリ」といわれるように女性のキャリアはゆるやかに二分されていました。  しかし最近では、この二極だけでなく、家庭のことも自分の納得いく範囲で行いたい一方で、仕事もしっかり行いたいという人たちが多くいることが調査によってわかってきました。その数は、正社員として働く女性の半数。私どもはこの層を「フルキャリ」と名付けています。 ―ただ、フルキャリとして両立を頑張り続けるのも大変ですね。  このフルキャリ層次第にゆるキャリ層へと流れる傾向にあり、「両立が難しくなった」というのが主な理由です。  せっかくやる気のある従業員がいるにもかかわらず、働くことを諦めざるをえないというのはもったいないことですよね。経営コンサルタント的視点では、働く女性の半数を占めるフルキャリ層をサポートすることが経営にもプラスに働くといえるでしょう。 ―職場のサポートはもちろんですが、家事負担の軽減も重要です。  バリキャリ、ゆるキャリ、フルキャリの3つの層それぞれで家事負担軽減につながる家事支援サービス・製品の利用状況を見てみました。  家事支援サービスやハウスクリーニングを使っていたのはバリキャリで、食品・日用品等宅配サービスはゆるキャリが多く使っていました。  家電に関してはロボット掃除機、乾燥機付き洗濯機、食器洗い乾燥機の3つはどの層も導入割合が他の項目に比べ多かったですが、意外とバリキャリ層の割合が低いのが気になりました。家事支援サービスを使うのであれば時短家電も一緒に使った方がコストパフォーマンスは良いと思われるのですが。 フルキャリは食品・日用品等宅配サービスや家電を取り入れてはいますが、いずれもまだ高い割合ではありません。 ―近年は家事負担軽減のソリューションとして、家事支援サービスの注目が高まっています。  弊社では、社内独自のものを含めると2010年ごろから調査を進めています。当時はちょうど安倍政権の成長戦略の一丁目一番地で「女性活躍」が叫ばれていた頃です。保育園の充足や企業内での制度拡充も推進されていましたが、家事をはじめとする家庭内の状況も変わっていかなければ真の女性活躍が実現できないのではないかと考えました。  まだ家電が今ほど家事のサポートになる、というところまではいっていなかったこともありますが、家事支援サービスに着目し調査をスタートしました。とはいえ家事支援サービスもハウスクリーニングと混同されていたような状況でした。ハウスクリーニングは専用機材や洗剤を使ってプロが掃除をするものですが、家事支援サービスは「(基本的には)家にあるものを使って、その家の家事を代替する」という区別を作って調査をしはじめました。 ―そこから考えると現在はかなり認知度が上がってきましたね。  テレビ番組などでも取り上げられることが増えました。しかし未だに一部の人が利用するサービスであることに違いはなく、なかなか「誰もが必要なときに選択するサービス」にはなっていかないのが現状です。  ただ現実として、家事負担の軽減はずっと考えられてきたテーマです。家事支援サービスだけでなく、時短家電やミールキットなどが注目されています。ポイントは「自分の許容範囲の中で時短・効率化していく」ということです。 ―「許容範囲の中で」というのは。  家事は「なんでも省力化すればいい」というものではなく、人によって手を掛けたい部分があるということです。人それぞれの譲れないポイントやこだわりに手を掛けられるように、そのほかの省力化したい部分をサポートする商品やサービスが拡充してきました。それらを利用するように消費者の意識も変わってきています。 ―しかし「こだわりたい部分」と「省力化したい部分」の線引きも難しい問題です。  家事に対する判断やマネジメントに関して、そもそも皆さん意識して行っていないですよね。自分が何にプライオリティを持つかなんて考える余裕もなく日々走っていると思いますし、決める機会もないので、先ほど言ったような「省力化したい部分」に対する各種サポートを利用するに至らないという人が多いです。  うまく利用している人は、サポートを利用しながらプライオリティを調整している印象です。家によって状況が細かく違うので、「こういう風にサポートを使うといい」というハウツー的なものが通用しません。自分なりの使い方を調整することは必要で、それを乗り越えた人はすごくうまく使っているなと思います。 ―家事負担を軽減したいと思っている一方で、「家事は自分でやらなければいけない」「手抜きはよくない」という考えが、無意識かもしれませんが根強くあるようにも思います。  長年調査をしていますが、なかなか心理的ハードルは払拭できていません。事業者もあの手この手で抵抗感を乗り越える策を打ち出していますが、打開には至っていません。 ―家事は「負担・ムダ」に感じる部分と、「手間・こだわり」という相反するもののバランスを取るというのが非常に難しいと思います。  ミールキットなどでも野菜や肉など何か1品加えて完成させるものが人気です。1品加えるという一見ムダに感じることでも、「手間をかけている」という心理的充足につながっています。  ムダと手間のバランスを取るためにも、家事のマネジメントという概念が浸透するといいなと考えています。家事支援サービスを頼めばどこまで外注するか考えることになりますし、効率の良いやり方を知ることができるかもしれません。家事のコンサルティングのように使ってみるのもよいと思います。 ―ただ家の中では、「家事はできる人がやる」という意識が広まりつつあります。  たしかに働き方改革や若い世代の価値観の変化などにより、家の中での家事シェアは進んできていますし、これからも進んでいくと思います。しかし、家庭内で分業だけすればいいのでしょうか。よく「働き方改革で男女とも時間が生まれれば家のことをアウトソースする必要はない」と言われますが、せっかく生まれた時間を家事だけに充当してしまっていいのでしょうか。誰にでもできる家事は家電や家事支援サービスに任せれば、余った時間をもっと別の有益なことに使えるかもしれません。 ―家事支援サービス事業者側の変化はありますか。  調査を始めた当初は富裕層向けや「ごほうびサービス」といった印象が強かったですが、今は「生活のパートナー」という形でプロモーションしています。またできるだけ利用しやすいように、店頭で買えたり、ギフトサービスや福利厚生として取り入れたりと複数のチャネルで提供するようになっています。  何より一番大きな変化はマッチングサービスが出現したことです。家事支援サービスの働き手と利用者をプラットフォーム上で結びつけるサービスです。また料理、掃除、育児などに特化したものも登場しています。 ―「生活のパートナー」として売り出すためには、金額もポイントですね。  マッチングサービスが登場したあたりから単価が下がりつつあり、1時間1000円~2000円です。老舗系のところだともう少し高く、3000円くらいでしょうか。  「家事支援サービスを利用していない理由」として価格が高いという声もあります。しかし特徴的なのは実際の利用者と非利用者で費用対効果の考え方が違うということです。利用者はサービスを使うことで1週間や1カ月単位で自分の生活にとってどうメリットが出たかを見ます。しかし非利用者は家事支援サービスで実施された作業に対してコストパフォーマンスを見る傾向にあります。 ―ユーザーが増えるにはまだハードルがありますね。  大きく2つのハードルがあると思っています。まず「自分は利用対象者ではない」と思っていること、次に実際に頼む際の事業者の選定や金額についての具体的な悩みです。まだ前者が圧倒的に多いので、業界全体や社会的な雰囲気・価値観を変えていく必要があります。  ただ利用シーンや利用者の幅は少しずつ広がりつつあります。出産後のサポートや、単身者、高齢者の利用事例も出てきていて、今後増えていくと思われます。 ―企業側も福利厚生として家事支援サービスを取り入れるという動きが出てきているのでしょうか。  家事支援はベビーシッターや病児保育のように直接的に勤務に結びつかないので、まだ積極的ではないのが現状です。しかし会社の中だけでなくライフサイドまでサポートすることが、結果的に企業内での活躍につながると考える企業は増えています。 (※) 総務省統計局「労働力調査結果」          「認知度8割、でも利用者は5%…家事代行サービスの基礎を知る」#6 家事代行サービス

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