【内容追加】カリスマ失った3社連合、ポスト・ゴーンで対立先鋭化も

連載「日産・ゴーン不正の衝撃」上・中・下

絶対的トップに君臨してきたゴーン容疑者の逮捕は関係見直しの議論に影響を与える

 日産自動車のカルロス・ゴーン代表取締役会長が、東京地検特捜部に逮捕された。ゴーン容疑者は仏ルノー、三菱自動車の会長も兼務し3社連合の絶対的トップに君臨してきた。そのカリスマの“蒸発”。ルノー株主の仏政府の対応や、3社連合の資本関係の見直し議論に影響を与えそうだ。ゴーン・ショックに揺れる日産・ルノー・三菱自の3社連合はどこに向かうのか。  「ゴーン氏の天性とも言える多様性が成功の秘訣(ひけつ)の一つだ」―。日産に資本参加した99年、ルノー会長兼最高経営責任者(CEO)を務め、ゴーン容疑者を日産に送り込んだルイ・シュバイツァー氏(現ルノー名誉会長)。19日、日刊工業新聞の取材に応じ連合の歴史をこう振り返った。ゴーン容疑者逮捕が報じられたのは、この数時間後だった。  日産とルノーの関係は自動車業界のグローバル提携の代表的な成功事例とされる。キーワードは「対等な関係」だ。ルノーは日産に43%出資し資本の論理では強い立場にあるが、両社が独立性を維持しシナジーを創出してきた。このウィン―ウィンの関係を実現できたのはゴーン容疑者個人の資質に依るところが大きい。  ゴーン容疑者は現在、ルノー会長とCEOを兼務しているが、CEOの任期は22年まで。三菱自も加わり連合の運営は困難さを増しており、現体制のままでポスト・ゴーンに移行した場合、提携を維持できないリスクがある。そこで18年に入り、仏政府は“ゴーン後”の3社連合を「不可逆な関係」にするための新体制を求め、議論が活発化していた。  こうした状況で起きたゴーン容疑者の逮捕。連合の関係見直しは日産、ルノーだけでなく、日仏政府の調整も必要な案件。にもかかわらず急転直下でポスト・ゴーンに陥った状況で、議論の行方は不透明さを増した。  もともと仏政府は株主であるルノーの日産に対する影響力を高め、日産の経営に関与したい意向を持つ。一方、日産側は対等関係や独立性維持を堅持したい考えでスタンスが異なる。  ゴーン容疑者逮捕は「日産にとってポジティブに働く」と中西孝樹ナカニシ自動車産業リサーチ代表は指摘する。かつてゴーン容疑者は、日産に対して影響力を持とうとする仏政府の盾になっていたが、「最近は仏政府寄りのスタンスになり、日産を犠牲にすることにつながる言動が目立ってきた」(中西代表)と分析。そのゴーン容疑者がいなくなったことで、日産有利で関係見直し議論を進められる環境に近づいたという訳だ。  ただ微妙なバランスで成り立ってきた連合の力関係が変化すれば、日産とルノー・仏政府の対立が一気に先鋭化する可能性はある。世耕弘成経済産業相は20日の閣議後記者会見で3社連合について「安定的な関係を維持していくことが重要」と述べた。カリスマが去り、それは最も難しい課題になった。 (日刊工業新聞 2018年11月21日掲載)  日産自動車は22日、代表取締役会長のカルロス・ゴーン容疑者と、代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者の解職を求める臨時取締役会を開く。経営正常化への一歩ではあるが、これまで取締役会や監査役会はゴーン容疑者らの“暴走”を止められなかった。コーポレートガバナンス(企業統治)改革が差し迫った課題になる。  日産のコーポレートガバナンスの重大問題の一つは仏ルノーと株式を持ち合い、親子上場していることで、以前から市場関係者らから批判されてきた。日産はルノーに15%、ルノーは日産に43・4%出資。さらにゴーン容疑者は05年から17年まで日産社長兼最高経営責任者(CEO)とルノー社長兼CEOを兼務していた。日産会長に就任後も日産の取締役会議長を務めた。  これにより、例えば、ゴーン容疑者は日産取締役会で望まない役員人事が可決されても、ルノーとして株主権限を行使し、同人事を否決するという手段をとることができた。西川広人日産社長兼CEOは「ルノーのトップが日産のトップを兼任しガバナンス上、1人に権限が集中しすぎた」と話した。  さらに日産は監査役会設置会社であり独立の指名委員会、報酬委員会を持たない。取締役会ではゴーン容疑者の意向が強く反映される形で議論が進んでいたとみられる。  ゴーン容疑者が会長職と代表権を解かれれば、1人に権力が集中する構造は解消する。ただ日産、ルノーの親子上場は継続する。安東泰志ニューホライズンキャピタル会長は「日産の意思決定に、一般株主の意見が反映されず、日産がルノーに支配される構造は変わらない」と指摘する。不透明な統治が続けば、経営の重大な判断ミスや将来の不正の温床になりかねない。  一方、三菱自動車幹部は「ゴーン氏が大きな役割を果たしてきたのは事実」と話す。3社連合がシナジー(相乗効果)を発揮し、世界2位の自動車メーカーにのし上がったのは、ゴーン容疑者が独裁的とも言える強烈なリーダーシップで日産、ルノー、三菱自の3社連合をまとめ上げてきたことの成果でもある。  仏政府が主導し連合の見直し議論が進んでおり、日産のカバナンス改革と併せて、株式の持ち合いや、親子上場が解消に向かう可能性はある。ただゴーン容疑者という扇の要を失い、さらに資本関係が急変すれば3社連合の競争力低下につながる懸念はある。  真に対等な関係を築いて経営の透明性を確保し、シナジー創出力を高める―。日産のガバナンス改革は、こうした3社連合の理想型を探る作業でもある。 (日刊工業新聞2018年11月22日掲載)  「日産自動車は外資系企業みたいなものだ」。国内の自動車メーカー首脳は、日産をこう捉える。経営危機に陥った日産に資本参加した仏ルノーが、カルロス・ゴーン容疑者を最高執行責任者(COO)として送り込んでから20年弱。この間、日産は“ゴーン色”に染まった。  2016年に燃費不正問題が発覚した三菱自動車もゴーン容疑者の素早い動きで日産の傘下に収め、ルノー・日産・三菱自の3社連合を形成。グループとして自動車業界での存在感や影響力を高めた。  トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)、米ゼネラル・モーターズ(GM)といった世界販売台数が年間1000万台を超える「1000万台クラブ」にルノー・日産・三菱自連合も仲間入り。17年暦年の世界販売は約1061万台で2位となり、首位のVWと3位のトヨタの間に割って入った。  ゴーン容疑者は「業界1位になることは目標ではない。ベストを目指した結果にすぎない」と語っていたが、野心は持っていたはず。17年9月には3社連合で22年までに世界販売を年間1400万台に引き上げる新6カ年の中期経営計画も公表し、事業拡大への意欲をあらわにしている。規模を生かした先進技術の積極導入やコスト低減効果も強調していた。  しかし、ゴーン容疑者の事件を受け、仮に3社連合の枠組みが崩れることになれば構想は頓挫する。17年の世界販売台数は日産が581万台、ルノーは376万台。販売規模を考えると両社ともCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)への対応に迫られる自動車産業の大変革期に、単独での戦いは避けたいところだ。研究開発費が年間1兆円を超えるトヨタ自動車でも「稼ぐ力をつけておかないと、先行投資に振り向けることができない」(小林耕士副社長)と危機感を募らせる。  VWは独アウディなどの有力ブランドを傘下に持ち、トヨタはマツダやスズキなどと緩やかな日本連合を組むなど1000万台クラブは厚みを増し、将来に向けて体制整備を急いでいる。そのような中で今回、世界トップ3の一角に躍り出た3社連合を束ねるゴーン容疑者の事件が起きた。もともと、ルノーの筆頭株主である仏政府は3社連合の「不可逆な関係」を望み、日産はルノーとの経営統合にあらがったとされる。この局面の内輪もめで対応を誤れば、業界再編の引き金になりかねない。 (日刊工業新聞2018年11月23日掲載)

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