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電力系ユーチューバーがインドネシアに活動拠点を移した理由

電力系ユーチューバーがインドネシアに活動拠点を移した理由

発展途上の市場にひかれて移住した棚瀬さん(インドネシアのオフィス)

“電力系ユーチューバー”と言えば、棚瀬啓介さんだ。難解な電力制度の解説動画を数多く公開しており、コアなファンを抱える。その棚瀬さんは2月末、インドネシアに活動拠点を移した。電動バイクのバッテリー交換サービス事業を展開する日系スタートアップで働くためだ。

棚瀬さんは2005年、NTT西日本に入社。14年、新しい市場に挑みたいとNTTグループが出資する新電力に移った。だが、電力業界は専門用語が多く戸惑った。自身と同じ境遇の人の助けになりたいと解説文を書き、インターネットで公開を始めた。

一度、NTTグループを離れたが、再生可能エネルギー事業を手がけるNTTスマイルエナジーに契約社員として復帰。副業を認めてもらい、20年ごろから動画配信を始めた。

当初「再生回数は1回。自分しか見ていない」という状況。次第に視聴者が増え、電力ビジネスの起業家から企画の提案が届くようになり、学生向けの配信も試みた。コロナ禍であり「オンラインでつながると面白い」と手応えをつかんだ。

対談動画などを次々に公開していると、視聴者の山口智市さんから「アドバイスが欲しい」と声がかかった。山口さんはインドネシアで再生エネ事業を始めたサントモ・リソースの創業者。オンラインで2年間ほどやりとりするうち、発展途上の同国にひかれた。「伸びる業界に身を置きたいというコンセプトが自分の中にあった。40代が最後のチャンス」とグループのサントモ・グリーン・パワー・マネジメントへの転職を決めた。

だが、異国での生活は苦労が絶えない。食べ物の好き嫌いがあり英語も不得意。「商談中、会社に持ち帰って検討すると伝えると断られる。スピード感が違う」という。しかし「市場が成長しており、新しいビジネスを育てやすい。新事業を日本に持ち帰りたい」と目を輝かせる。日本人が脱炭素ビジネスを求め、新興国に移住する時代となった。凱旋(がいせん)の暁には、日本市場に新風を吹き込む。

【略歴】たなせ・けいすけ 通信や電力、太陽光関連の企業に従事し、業務の傍らで電力系ユーチューバーとなる。愛読書は『イシューからはじめよ』(安宅和人著)。卓球2段。岐阜県出身、43歳。

日刊工業新聞 2024年06月14日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「GameChanger」企画の第4回です。社会人が副業でユーチューバーになるのも現代的ですが、日本人が脱炭素ビジネスをやりたくて新興国に渡る時代になったと思うと、いろいろ考えさせられました。しかもユーチューブをきっかけに異国に転職です。

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