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出荷全面再開も受注70%どまり、ダイハツ再生に活路はあるか

自動車の認証不正が業界全体に広がりをみせる中、ダイハツ工業は全車種の出荷停止に追い込まれてから半年弱で、全面的に事業を再開した。認証不正で信頼を失い、長期の出荷停止で打撃を受けたが、トヨタ自動車から支援を得て再び走り出す。だが、大きく落ち込んだ販売を回復し、出遅れた電動化も巻き返すのは容易でない。軽自動車や小型車でかつての輝きを取り戻せるのか。再生の道は険しい。(大阪・田井茂)

不正、業界の構造問題に

ダイハツは4月の国内生産が前年同月比69・0%減の2万1317台と前月から減少率が3・2ポイント悪化した。4月上旬にほぼ全車種の出荷を再開したものの、営業自粛や品質検査の厳格化などで一進一退が続く。滋賀工場(滋賀県竜王町)では派遣従業員の入れ替えが多数生じ、昼・夜2交代勤務への復帰が5月中旬と出遅れたのも響いた。半面、4月の海外生産は同12・8%増の5万1036台と伸長。海外はもともと出荷停止車が一部に限られ、合弁で「国民車」を生産するマレーシアで販売が伸びた。

ダイハツ工業とスズキの世界生産(月間)

ダイハツは量産に必要な型式指定の認証試験不正で2023年12月、国土交通省から全車種の出荷停止を指示された。前例のない全車種出荷停止は24年4月下旬に解除されたが、受注は停止前の約70%にとどまる。1989年にさかのぼる長期の不正でイメージは傷付き、テレビなど表だった販売促進を再開できない。ダイハツの井上雅宏社長は「販促再開のお許しを得たとは思っていない」と営業の手足を縛られている。ダイハツの不正は全車種に及び、親会社のトヨタやホンダマツダスズキヤマハ発動機で確認された一部車種とは異なる。しかし、他社も今後の調査で不正車種が増える可能性はあり、業界が抱える構造問題となりつつある。

トヨタと一体、新興国に活路

ダイハツは不正の再発防止を最優先に検査にコストを割くため、商品力を後回しにせざるを得ない。井上社長は「全面改良や部分改良は少し先延ばししたり、規模を70%に減らしたりする。24年はこうした開発のスケジュールを詰めていく」と、規模縮小や出遅れを認める。他社への供給も含む商用バン3車種については、少数の在庫車両出荷を始めた程度に過ぎない。当初の改良計画の時期と重なったこともあるが、改良するのか、現モデルを一部改め継続販売するのか、決まっていない。認証不正が特に悪質として型式指定を取り消された小型トラック3車種に至っては型式再取得の道筋すらみえない。これは軽トラックと1トントラックの中間的な車種で、ダイハツしか生産せず代替車がない。狭い住宅地の水道工事を手がける事業者らが指名買いするため、工事への悪影響も懸念される。「ダイハツ車がこれまで通り国内で年間65万台売れるとは到底思っていない」(井上社長)と覚悟する。

ダイハツ工業の生産実績(2022年度)

ダイハツは徹底したコスト低減と短期開発で薄利多売の利益をひねり出してきた。地域の生活に密着したニーズをつぶさに調べ、安価な軽自動車と小型車へ反映する商品力に定評がある。中でもインドネシアとマレーシアでは、国民的な人気車でトップの生産数や車種を握る。「新興国が求める車をつくれるのはトヨタグループでダイハツだけ」(井上社長)であり、そこに再起のチャンスがある。

昨年にダイハツが全面改良したマレーシアの国民車「アジア」

EV開発競争、立ち遅れ深刻

ダイハツは不正を教訓に開発にゆとりを持たせ検査の関所も増やすため、特に電気自動車(EV)など競争が加速する脱炭素の立ち遅れも深刻だ。ダイハツは不正を理由に、トヨタ、スズキ、日野自動車、いすゞと出資する商用車企画会社のコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、東京都文京区)から2月に脱退した。CJPTで軽商用EVの主な開発と生産を担い、トヨタとスズキとの共同開発車として今春発売予定だったが、撤回した。井上社長は「脱炭素は非常に大事で火を消さないが、短期にはEVの開発や連携に手を付けられる立場にない」と口をつぐむ。30年に国内の新車を全て電動化する当初計画は、見直しを迫られる。有力サプライヤー首脳は「トヨタが親なので法的再生はありえないが、一番苦しむのは現場。地域に根差し、モノづくりと雇用を守り、現場の自信を取り戻してほしい」と再起を待ち望む。

トヨタ向けの商用車などを生産する京都工場(昨年2‎月撮影)

世界市場の多様化やEVも含む競合激化でメーカーの認証負担は増している。日本車の信頼を高める制度だが、シミュレーションなど評価技術の進歩で安全と環境の性能も初期から効率よくつくり込めるように変わりつつある。性能をいかに保証し、メーカーも順守できる制度へ作り直すべきなのか。ダイハツの苦闘は、本質的な問題を投げかける。

日刊工業新聞 2024年6月6日

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