次世代半導体材料に総力…物材機構・理事長の〝緻密〟な経営
物質・材料研究機構(NIMS)の宝野和博理事長は3年目を迎えた。その経営は〝緻密〟だ。前理事長を4年間、研究担当理事として支えた経験から各部門の研究計画や予算、人材の勘所をつかんでいる。研究者が研究組織の課題を解き明かし、必要な手を打っていく。現場には研究の進め方や結果をごまかせない緊張感がある。
ー2023年度の機構改革でバイオ材料をテコ入れしました。進捗(しんちょく)は。
ー1年目の評価はいかがでしたか。
ー重点領域のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)は。
「利用は液化水素を冷媒として使う超電導線材の開発を進めている。水素社会が実現すると、液化水素の冷熱を捨てずに有効利用する用途が重要になる。NIMSには金属材料技術研究所時代に開発したビスマス系高温超電導体など、実際に線材を作る技術を持っている。そして長年、構造材料の水素脆化を研究してきた。液化水素中での信頼性試験機は世界で唯一の装置だ。水素脆化で材料が脆くなる過程を評価できる。さらに水素顕微鏡など、材料中を透過する水素を可視化する解析技術も備える。サプライチェーン構築に向けて、水素関連設備のコストの大きな部分を水素脆化に対応するための材料費が占める。適切に評価し、安価な材料を開発することで水素社会の実現につなげる。製造と貯蔵、利用、信頼性で相乗効果を狙った組織を作る。国の脱炭素政策に貢献していきたい」
ー次世代半導体を研究する技術研究組合「最先端半導体技術センター(LSTC)」が稼働しました。NIMSも参画します。
ーデータ駆動型研究では全国から集めた研究データの本格的な共用開始まで残り1年を切りました。
「そのためには質の高いデータが必要だ。信頼できるデータを人工知能(AI)に学習させなければならない。そこで半世紀蓄積してきた構造材料の長期信頼性試験データをデジタル化している。NIMSには最長で35万時間、40年以上引っ張り続けてきたクリープ試験など、信頼性評価のデータがある。多くは紙で保管されてきたが、AIに学習させるためにデジタル化を進めている。例えば3万時間と7万時間のデータから5万時間の金属組織の画像を生成させるといった使い方を想定している。材料組織のシミュレーションと組み合わせ、試作品の組織画像から寿命を推定できるようになるだろう。画像生成AIの研究は活況だ。アイデアを持つ研究者は多く、それを実現しにデータ基盤を使ってくれるだろう。また『チャットGPT』のような大規模言語モデル(LLM)のために、NIMSの研究の歴史や最先端の研究内容、研究者らの知識情報をどんどんアップしている。従来はホームページを設けても、誰が読むのかと問われていた。専門性が高いとなかなか読まれない。だが多くの人がLLMを通して知識を引き出すようになり、情報の信頼性の価値が増している。そしてNIMSの情報が『NIMS』と検索しない人にも届くようになった。目立たない仕事だが、データの信頼性の面からAI社会を支えたい」
ー強化していた人材獲得の状況は。
「そこで大学院生を育てている。大学院と協定を結びNIMSジュニア研究員として受け入れている。博士後期課程の大学院生には生活費相当額の240万円を支給している。24年度選考からは大学院の入学料相当として30万円の一時金を提供する。いかに支援を拡充するか毎年知恵を絞っている。授業料免除のある大学では、経済的な負担なしに博士号を取れる。ポスドク研究員には若手国際研究センター(ICYS)でリサーチフェローを用意している。年俸600万円以上で毎年200万円の研究費を支給する。卒業直後から自分の独立した研究ができる。採用する立場では日本人の大学院生や若手研究者がじわじわと減っている感覚がある。実際、博士課程への進学率は減っている。NIMSは採用人数を増やしている。研究機関の競争力は研究者だ。ぜひ挑戦して欲しい」