「ギガキャスト」不良低減・大型化へのカギ、“トヨタ秘伝のタレ”の正体
「エンジンのシリンダーブロック鋳造で培ってきた匠(たくみ)の技がなければできない」。トヨタ自動車が試作を進める、車体部品を一体成形する「ギガキャスト」。同技術を手がける明知工場(愛知県みよし市)の技術者らは口をそろえる。
例えば汎用部と専用部に分割した金型を組み合わせて成形する独自の工法は、既存のダイカスト製品でも採用している。わずかにでも隙間が生じれば製品はできない。熱膨張や収縮の影響を織り込みながら、高精度に型の寸法管理や設計をすることが不可欠になる。
この手法を支えるのが独自の解析ソフトウエア。実測データに基づいた溶かしたアルミニウムの流れ方や固まる経緯、型を外す際の力のかけ方などをシミュレーションし、これを基に試作することでより高度な型設計やモノづくりにつなげている。担当者は「30年来の匠の技能を盛り込んだ“トヨタ秘伝のタレ”だ」と胸を張る。現場の知見を解析ソフトに反映するサイクルを加速し、事業性や今後の競争に欠かせない、ギガキャストの不良低減や大型化、薄肉化による軽量化を目指す。
次世代電気自動車(EV)生産で目指す、生産工程や投資を半分に抑える「BEVハーフ」の考え方も既存と革新の融合によるものだ。トヨタでは3年以上前から既存の生産ラインで、スペースを小さくしながら生産性を倍以上に向上する取り組みを進めていた。
BEVハーフの要素の一つであるEV車台が組み立て工程を自ら移動する「自走式ライン」も、当時から構想していた各工程を自在に組み替えられるようにして、よりコンパクトなラインを構築するフレキシブル生産ラインの考え方に通じる。「柔軟性が高まればいろいろな車が作れると同時に、予想以上の受注が来た他のラインの生産もカバーできる」(当時のトヨタ幹部)。
これら革新ラインの思想の軸には、生産ラインのムダを徹底的に省き効率を高める「トヨタ生産方式」(TPS)がある。「できるだけ小さな単位で作れるような工夫は、トヨタが得意とするところだ」(同)。
ギガキャストや自走式ラインといった次世代生産システムは、まずは2026年投入予定のEVで導入を計画する。一方、30年時点でも、自動車市場の5割以上をハイブリッド車(HV)などの既存車両が占めると予測される。既存ラインの革新も重要なテーマだ。
次世代でも生き残れる現場にしなければ―。こうした危機感は、特に内燃機関系の部品を手がける工場で強い。その一つが衣浦工場(愛知県碧南市)。カギはデジタル変革(DX)だ。
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