「ギガキャスト」に匠の技フル活用…次世代のトヨタの強みとは?
トヨタ自動車が、創造と継承の融合でモノづくりを再構築しようとしている。既存の生産ラインはデジタル技術を駆使して刷新。電気自動車(EV)では車体構造を一体成形する「ギガキャスト」に、積み上げた匠の技をフル活用し効率性を向上する。従来の延長上の発想を打ち破った先に見据えるのは、米テスラといった新興EVメーカーをしのぐ、より変動対応力の高い現場と次世代生産システムだ。(全5回)
生産現場を競争力の源泉と位置付けるトヨタ。しかし近年、EVを中心に自動車生産に変化が起きている。米テスラや中国・比亜迪(BYD)などの新興勢力が、既存自動車メーカーの発想にとらわれない生産方式を採用。EV生産のスタンダードとなってきた。ギガキャストの考え方も、元々はテスラが始めた工法だ。中国の新興EVメーカーの工場を見学したという自動車関連メーカーの幹部は「天井からモノを吊り下げるためのチェーンは全てゴム製で、音も静か。日本の自動車工場では考えられない光景だった」と発想の柔軟さに驚きを隠さない。
では、次世代のトヨタの強みとは何か。「革新技術と経験、匠の力を融合させることは我々にしかできない」。製造を統括する新郷和晃執行役員は断言する。例えばギガキャスト。汎用部と専用部を組み合わせる「分離型」を採用しているが、これは20年ほど前からエンジン部品で使っている方式だ。通常24時間かかる型交換を、20分に短縮できる。さらに「徹底的にムダを省き、2026年には20%の生産性向上を目指したい」(担当者)と、伝統的な強みであるトヨタ生産方式(TPS)の思想を持ち込む考えだ。
新郷執行役員は「ロボットを買ってくるだけでキレイな自動化ラインができる訳ではない。経験の組み合わせが重要だ」と話す。これまで磨き上げてきた知見やノウハウは、かけがえのない財産だ。“既存と革新の融合”による、量や種類の変動に強い生産ラインの構築。これがトヨタが打ち出す未来の工場のイメージだ。
トヨタが描く新たな工場の風景は、部品や資材の設計、生産から納入、物流の方法まで、サプライチェーン(供給網)のあり方を根本から変える可能性を秘める。同時に、デジタル変革(DX)、人手不足、大量生産から少量多品種モデルへの転換など、現在、製造業が直面する複数の課題解消のヒントにもなり得る。
「生産や開発、仕入れ先の垣根を越えてモノづくりの世界を変えたい」。新郷執行役員は、決意を語る。こう宣言するトヨタがかつて生み出したTPSは、製造現場の標準モデルとなった。トヨタの次世代生産システムは次のスタンダードになるのか。製造現場では、生き残りをかけた挑戦が始まっている。
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