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半導体復権へ大きな一歩…SBI・台湾PSMCが8000億円投資で新工場、宮城を選んだ理由

半導体復権へ大きな一歩…SBI・台湾PSMCが8000億円投資で新工場、宮城を選んだ理由

会見に臨んだ左から村井嘉浩宮城県知事、黄崇仁パワーチップグループ会長兼PSMC会長、北尾吉孝SBIホールディングス会長兼社長、呉元雄PSMCジャパン社長

SBIホールディングス(HD)が、台湾の半導体受託製造(ファウンドリー)大手の力晶積成電子製造(PSMC)と計画する半導体新工場の立地が宮城県内に正式に決まった。自動車や産業機器向けの半導体を2027年から量産する。新たに日本国内に大規模な半導体工場が建設されることで、産業のサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化に役立つだけでなく、経済安全保障の観点からも重要だ。日本の半導体産業の復権に向け、強力な一歩となる。(編集委員・小川淳、同・政年佐貴恵、同・田中明夫)

台湾PSMCと連携 8000億円投資、東北に“生態系”

半導体産業は伝統的に「シリコンサイクル」と呼ばれる好況と不況の波を約4年周期で繰り返しており、ボラティリティー(変動性)の高さに日本企業は苦しめられてきた。半導体産業には膨大な資金力が必須。SBIグループは同グループの持つ強い資金調達能力やネットワークを生かし、国内外から安定的で長期の資金調達などが可能としている。

計画では宮城県大衡村の第二仙台北部中核工業団地内に総投資額約8000億円でファウンドリーを建設する。第1期は4200億円を投じ、27年に稼働を予定。回路線幅が40ナノメートル(ナノは10億分の1)および50ナノメートルの半導体を300ミリメートルウエハー換算で月間1万枚生産する。29年の稼働を目指す第2期では28ナノメートルの生産も始め、月間計4万枚の量産体制を構築する。

ただ、SBIの北尾吉孝会長兼社長は31日に都内で開いた会見で「補助金がでなければこの事業をやるつもりはない」と明言しており、事業推進は政府からの一定水準以上の補助金を受けることが前提とクギを刺した。

宮城県には自動車産業が集積する(トヨタ自動車東日本の宮城大衡工場)

両社が7月に構想を発表後、30超の自治体から誘致の申し出し出があった。最終的に宮城、三重、福岡の3県が候補地として絞り込まれたようだ。

東北地方はトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)を筆頭とするトヨタグループのサプライチェーン(供給網、SC)をはじめ、自動車の産業クラスターが存在する。さらに「東北各地には半導体関連のSCが多数存在する。効率的な生産に好ましい」(北尾社長)。インフラの充実のほか、こうしたことが立地を後押ししたようだ。

また、PSMCは台湾内で最新のファウンドリーの稼働を24年に計画する。同社の黄崇仁会長は「同じモノを日本で作りたい。東北のサイトは非常に素晴らしい」と述べており、台湾の新ファウンドリーの設計図を基にすることで、工期を大幅に短縮する狙いだ。

SBIは車載向けに需要の高い28ナノ―55ナノメートルの半導体ウエハーの国内需要は22年に7100億円規模としており、このうち9割が海外生産になる。31年には1兆1000億円へ増えると試算しており、両社の工場が完全稼働すれば、31年時点で国内需要の14・5%を供給でき、国産化に貢献できるとしている。

また北尾社長は「ファウンドリーの設立で終わるつもりはない。生態系をつくる」と説明しており、内外の関連企業を取り込み、半導体産業の競争力強化に貢献する。さらに「生態系ごとほかの国に移築することを考えている」と述べ、海外展開に含みを持たせた。

政府、「重要」指定 支援手厚く

生成人工知能(AI)、車や機械の自動化、データ活用とそれに伴うデータセンターなどに欠かせない半導体は、今後の経済成長を占う重要物資となった。政府は経済安全保障推進法に基づき、半導体を特定重要物資の一つに指定した。西村康稔経済産業相は31日の閣議後会見で、SBIHDとPSMCによる国内投資の検討について「自動車で使われる半導体の確保につながる」と発言。「取り組みを歓迎したい」と評価した。

経済産業省は半導体生産に携わる国内企業の半導体関連の合計売上高を、30年に20年比約3倍の15兆円にする目標を掲げる。22年度補正予算では半導体支援関連で計約1兆3000億円を計上。熊本県での台湾積体電路製造(TSMC)の新工場やラピダス(東京都千代田区)、キオクシア、米マイクロン・テクノロジーの広島工場などへの助成を決定した。

自民党の半導体戦略推進議員連盟で、事務局長を務める関芳弘衆議院議員は「日本は半導体製造装置や素材の産業が優れている」と指摘。それを呼び水に投資を呼び込めるとの認識を示す。「半導体は経済安保上で中心になる重要物資。日本に半導体人材を再び集める意味でも、積極投資が重要になる」(関議員)。

経産省は現在、議論が進む経済対策でも半導体を重点分野に位置付け、23年度補正予算案では半導体支援で約3兆4000億円を要求しているようだ。西村経産相はサプライチェーン強靱化の観点から「半導体については大胆な支援を実施し、迅速に対応している。経済対策、補正予算でも必要な予算をしっかり確保したい」と強調する。

異業種からの投資も加速

政府の積極的な後押しを受け、SBIHDのように純粋な半導体メーカーではない異業種による投資も加速している。三菱商事は6月に化学部門の中に「半導体・環境素材事業部」を設置し、半導体向け材料事業への参入の検討を始めた。同社は中期経営計画でエネルギー・トランスフォーメーション(EX)とデジタル変革(DX)を重点分野に掲げる。電力制御や通信機器などで使われる半導体への材料供給を通じ、素材面からEXとDXの一体推進を支える事業の可能性を検証する。

またTSMCとの合弁事業にも出資するデンソーは、30年までに半導体分野へ約5000億円を投じ、関連事業の売上高を35年に現状比3倍に拡大すると発表。炭化ケイ素(SiC)パワー半導体などの生産を拡大し、電気自動車(EV)をはじめとする車の電動化や自動運転に欠かせない基盤技術と安定調達の両面で強化を図る。


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日刊工業新聞 2023年11月01日

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