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学術会議若手アカデミーが指摘する「いま取り組むべき10の課題」

日本学術会議から社会へ提言 学術の未来を探る #3
学術会議若手アカデミーが指摘する「いま取り組むべき10の課題」

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日本学術会議が第25期(2020年10月―23年9月)の会期末に駆け込むように公表した報告文書の中には、未来の学術界を占うものも含まれている。学術会議若手アカデミーが作成した「2040年の科学・学術と社会を見据えて、いま取り組むべき10の課題」が代表だ。今後20年のイノベーション創出を担う当事者が課題と対策を挙げた。中心となるのは、過度に競争的でハードワークを要する研究環境の改善だ。競争に疲弊し、あえぐ若手の姿が見えてくる。

イノベーション創出を阻む構造的問題

「アカデミアは今、個人への負荷増加と業界人口の縮小という負のスパイラルに陥っている」―。若手アカデミーはこう指摘する。学術会議の会員ではなく、連携会員として45歳以下の研究者が運営する組織だ。報告書では、「越境研究や地域連携に対する評価や支援の拡充」や「過度な経営的視点や失敗を許さない前例踏襲主義からの脱却」、「アカデミア自身の“業界体質”の改善」など10項目を挙げて対策をまとめている。

特に切実なのがハードワークを求める業界体質の問題だ。報告書では、バランスを取りようがないほどの“ワーク過剰”で、ライフワークバランスが欠如していると指摘する。仕事の質の追求は際限がない。勝ち抜く必要に迫られるほど不安にさらされ、作業時間が延びてワーク過剰に陥る。受験から研究職を得るまで競争にさらされ続け、これを受け入れた者のみが学術界に残る生存者バイアスがあるという。

ワーク過剰は業界に染み付いた体質で劇的に改めることは困難なため、改善を地道に積み上げて健全な体質を目指そうと提唱した。

このワーク過剰な体質を体現するのが学術会議本体だ。若手アカデミーの報告書などを会期末に駆け込むように公表した。9月だけで59本を発表したが、2023年はそれまで10本しか発表していなかった。公表を会期内にぎりぎり済ませると、翌週からは新体制を決める選挙に突入して忙殺されている。

報告書はいずれもコンサルタントに依頼すると1本数千万円かかるレベルのものだ。それを実質的に手弁当で運営される分科会に多数の研究者を集めて作成する。学術会議の民営化も取り沙汰される中、今後も必要なリソースを維持していけるのかが問題になる。

菱田公一前副会長は「新しいリポート作成だけでなく、発表したリポートのフォローも必要」と説明する。前の期のリポートが、次の期の会員の仕事を増やす構造にあるため、活動の維持拡大は困難な状況にある。

若手アカデミーの求めた業界体質の改善に学術会議は取り組めるのか。報告書を公表した後は状況悪化をただ見つめることになるのか。新しい期に重い課題を突きつけている。(小寺貴之が担当しました)

日刊工業新聞 2023年10月06日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
活動の成果が見えないと指摘されてきて、それを跳ね返すように約60本のレポートを発行しました。コンサルに頼んで数十人規模の研究者の知見を集めると一本数千万円コースになると思います。学術会議の予算は約10億円なので、毎週のように開催しているシンポジウムなども含めると、社会にとってはリーズナブルな仕組みと言えなくもありません。これを続けられるかどうか、民間事業として成立するかどうかは不透明です。手弁当のような運営でも文句を言いながら研究者が協力するのは日本の学術界の文化です。適正な対価を払うか、手弁当文化をよしとするか、いろいろ検討しないといけません。一方、若手アカデミーは業界体質の改善を求めています。いろんなところに無理がきています。手弁当で回していた仕組みを経済的にも成り立つようにして、ワークライフバランスを成り立たせる。少なくとも手弁当で回していた方々が考えても浮かんでこないアイデアが必要です。

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日本学術会議は第25期(2020年10月―23年9月)の会期末に59本の報告文書を公表した。内容は政府からの審議依頼への回答や見解、報告など学術界から社会への提言となる。この中には学術界の根幹に触れる課題が並ぶ。研究インテグリティと査読不正、2040年に向けた10課題から学術界の未来を探る。

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