政府との対立深まる日本学術会議、法改正に反対する背景
日本学術会議は18日、会員選考に対し意見する選考諮問委員会を設置する法改正へ反対を表明した。18日の総会で法案提出を思い留まるよう政府に求める勧告が全会一致で承認された。諮問委員会は会員選考の透明性を高めるためと内閣府は説明する。ただ学術会議は諮問委員会を通した政府の影響力行使を懸念する。透明性を向上させる方法として諮問委員会が適切なのか、議論の余地がある。内閣府は今国会に法案を提出、6月には通過、公布施行となる見込みだ。(小寺貴之)
「内閣府の説明をいくら聞いても、学術会議をよくしていこうという崇高な精神は感じられない」―。学術会議の梶田隆章会長・東京大学卓越教授は総会でこうこぼした。学術会議と政府の対立が深まっている。
内閣府は改正案に、選考諮問委員会の設置や学術会議の中期業務運営計画の策定などを盛り込んだ。選考の際に第三者的な組織を設け、客観的な意見をもらうことはよくある方法だ。運営計画の作成も国費が投入される以上は説明責任が生じる。そのため総会では「法改正には反対。だが反対の表明は慎重に言葉を選ばないと国民に誤解を与える」という意見が相次いだ。学術会議が第三者の意見や運営計画策定さえも拒否していると受け取られかねないためだ。
一見すると普通の経営改革案に対して反対が相次ぐのは、法改正へのプロセスに問題がある。学術会議は「通常の手順である審議会などが開かれない。誰が検討しているのか明らかにすべきだ」と指摘してきた。改正案の条文が示されたのは17日の総会が初めてだった。学術会議の総会での議論は一度きりで国会審議を迎える。
選考諮問委員会の人選も懸念されている。委員は5人。内閣府総合科学技術・イノベーション会議の議員と日本学士院の院長、学術会議の会長の3人で選ぶ。諮問委員会の組織や委員に関して必要な事項は政令で定めることになっている。
これは10兆円の大学ファンドで支援する国際卓越研究大学制度と共通する手法だ。卓越大では新たに「合議制の機関」という組織が設置される。この組織は法人の長の選任や解任、大学運営の重要事項を決める権限をもつ。この組織の顔ぶれによっては、大学の自治や学問の自由が脅かされるのではないかと懸念されてきた。
制度自体には善悪はないが、実際にどのような運用になるか文面からは見通せない。不信が募ったまま改革が進む。そして学術会議は任期制のため、いまの会員が交代すれば既成事実化していくと懸念されている。「現在の学術会議の形では対峙できない」という声もある。梶田会長は「学術の歴史的転換点になりかねない。政府は真摯(しんし)に検討してほしい」と要望する。