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【新型コロナ】日本よ、「アナログ」「公共心」「技術」の“3妄”捨てて台湾・韓国に学べ

早稲田大学政治経済学術院副学術院長・深川由起子

日本の新型コロナとの闘いにはなかなか先が見えず、目下のアジアの優等生は台湾と韓国だ。4月27日現在、台湾の感染者はわずか429人、死者6人、韓国はそれぞれ1万738人、243人でほぼ収束。特異な体制下にある中国とは異なり、台湾や韓国は「公共の利益と個人の自由」という普遍的問いを経験した。

双方とも膨大な小規模自営業を抱える経済構造は日本によく似て経済的犠牲が大きく、他方、「国境なき記者団」が発表する報道の自由度でもはるかに日本を上回って久しい。人口規模や都市化率など構造的な差は無視できないが、金科玉条のように「3密(密集、密閉、密接)」回避を唱えるだけでなく、日本の「3妄(アナログ妄想、公共心妄想、技術妄想)」見直しを並行させるべきだ。

台湾、韓国に共通するのは長らく冷戦構造の下にあり、1980年代終わりの民主化前まで権威主義体制が存続した点である。男子に課される兵役は台湾では18年末に廃止されたが、韓国ではなお存続する。行政に利用される国民識別番号の歴史は古く、台湾では16歳以上に「居民身分証」携帯が義務化されており、韓国では自分の「住民登録番号」をそらんじていない人の方が少ない。

このインフラをベースに行政のデジタル化が急速に推進され、今回もマスクの配給から感染者の濃厚接触追跡や隔離強制、経済支援に至るまで徹底とスピードを可能とした。マイナンバー普及率2割、いまだ対面で紙に押印が必要な行政、テレワークの進まない企業、徴税能力の低さなどアナログな日本社会のコストは耐え難い。「アナログの方が安全・確実」という妄想から抜け出さねばなるまい。

「自粛」の号令をかければ皆が協力する、という政策の背景には「他人に迷惑をかけない」のが日本社会の特徴であり、順法意識や公共心に富むという妄想があるのかもしれない。しかしながら、ギャラップが実施した「ウイルス拡散防止に役立つなら自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわないか」という問いに対する肯定は平均の80%を大きく下回って日本では32%、30カ国中の最下位だった。

コロナ疎開や開いているパチンコ店を求めた越境は公共心依存の政策に警鐘を鳴らした。一方、大規模検査、徹底追跡、早期隔離をセットにした韓国の対応では大企業はこぞって自らの所有する研修施設を軽症者に差し出した。このため、行政がわざわざ「ホテルを借り上げる」ような必要はほとんど生じなかった。

そして「高い技術力」への自信はアビガンなどの治療薬から簡易な人工呼吸器生産に至るまでの報道洪水を引き起こしている。しかし、平時に作られた制度の墨守が感染症との闘いに勝る目的となる中では、欧米などに比べてスピードの点で大きく劣る。

韓国は中東呼吸器症候群(MERS)の後、バイオベンチャーへの注力過程でPCRキットの短期量産が容易だったことが奏功したが、それだけではなく、ドライブスルー検査の実施といった現場のアイデアが果断に採用された。

ノーベル賞を取るような基礎技術を持つことと、現実の問題に対処する技術力は当然のことながら別個のものだ。基礎技術と応用技術のつながりの悪さやその背景にある産学官のあり方、許認可制度のあり方など、新型コロナは多くの反省点を突きつけている。日本型の出口は「3妄」を捨てることで見えてくるのではあるまいか。

早稲田大学政治経済学術院副学術院長・深川由起子氏
【略歴】ふかがわ・ゆきこ 早大政経卒、日本貿易振興機構などを経て、米エール大大学院修了。03年東大大学院総合文化研究科教授、06年早大政経学術院教授。前日本学術会議会員。著書「韓国・先進国経済論」で大平正芳記念賞を受賞。61歳。
日刊工業新聞2020年5月4日

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