値上げ交渉、自動車産業ピラミッドの底辺に波及せず…理由は「原価計算」?
部品メーカーの経営を左右するのが顧客との価格交渉だ。昨今のエネルギー、物流コストの上昇を受け、完成車メーカーや大手部品メーカーはサプライヤーに対して購入価格の引き上げを容認した。円安による輸入資材の価格上昇や賃上げの動きにも応えるためだ。しかし、その効果も完成車メーカーを頂点とする自動車産業ピラミッドの底辺までは十分に波及していない。
工場のクレーン製造が主力の菱栄工機(愛知県豊田市)の桜庭正樹社長は「サービスを拡充するなどしてなんとか値上げを理解してもらった」と胸をなで下ろす。また治具製造のミクニ機工(同みよし市)は、従来製品では年々価格が下がるところ、設計を見直すなどコストダウンして「価格を維持している」(寺師稚人社長)という。
一方で「中小零細企業では力不足もあって値上げは容易ではない」(自動車部品3次メーカー社長)との声は決して少なくない。期初に決めた価格を、短い期間で見直すこともある。
3次、4次メーカーは、従業員100人以下の中小企業が多い。「そうした会社の場合、トヨタ生産方式も導入されていなければ、労務管理だって十分な体制にない」(独立系部品メーカー社長)。「そもそも零細企業には原価管理の考え方すらない」というのは、部品メーカー大手の幹部を経験した3次メーカーの社長だ。
これは大手部品メーカーの子会社でも少なからずある。収益を管理する立場の親会社にとって子会社の原価構成は無視できない。それがサプライチェーン(供給網)の重要な役割を担う取引先であればなおのこと。しかし、原価管理が厳格にされていないため自社の部品の適正価格を算出できず「値上げの根拠を親会社や取引先に提示できない」(3次メーカー社長)。結果的に価格は据え置きになる。
ただ子会社が価格を上げられずに収益力が落ちれば、配当も減少することから親会社にとっても本意ではない。「まずは原価を理解できる社員を育成する」(同)方針だ。
これまで原価管理を考えなかったのは、親会社や取引先の要請に応えていればよいという安易な姿勢が温床となっている。親会社も決まった価格でモノが入れば問題視しなかった。しかし、エネルギー価格の上昇やカントリーリスクが増大し、大手部品メーカーにしてもサプライチェーンを維持するのはこれまで以上に困難な時代を迎えている。
人材も流動化しており「子会社の面倒を見るのは容易でない」(同)。3次、4次メーカーを持続的な成長に導くことは、サプライチェーン全体で考えるべき課題といえる。
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