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三菱スペースジェットの開発中止要因は?日本の航空機産業の新戦略に活かせるか

三菱スペースジェットの開発中止要因は?日本の航空機産業の新戦略に活かせるか

有識者検討会でMSJの開発中止を検証する(試験機「10号機」)

経済産業省は航空機産業の成長戦略を再構築する。三菱重工業の国産小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」開発中止を踏まえ、航空機産業における今後の完成機事業の方向性などを検討する。カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)への対応をはじめ事業環境が激変する中、官民で課題をあらためて洗い出し、新戦略に反映する。航空機産業の競争力の維持・強化につなげる。 (下氏香菜子)

航空関連企業や学識経験者らで構成する有識者検討会で航空機産業の課題や成長戦略を議論し、2023年度内にとりまとめる。MSJの開発が完遂できなかった要因や飛行試験などで得られた知見を整理・分析し、戦略策定に生かす。山下隆一製造産業局長は検討会で「開発中止を重く受け止めている。この経験を検証することが今後に向けた出発点になる」と述べた。

日本の航空機産業は航空機の国際共同開発を軸に、機体やエンジン、装備品などの製造で2兆円規模まで成長した。ただ、航空機需要は日本が強みを持つ双通路機から単通路機へシフトが進む。MSJの開発中止で、新型機の国際共同開発への参画機会も不透明だ。海外勢が投資を活発化する中、日本勢が目指すべき方向性が定まっていないのが現状だ。

新戦略を構築する上で最も重要になるのがMSJの開発中止の検証だ。MSJは三菱重工が経産省の支援を受け、03年から研究開発に着手した。13年に初号機の納入を目指していたものの、安全性を証明する「型式証明」取得の見通しが立たず、6度の納期延期を経て2月に撤退を表明した。

MSJの総括に向けては開発が完遂できなかった要因、開発で得られた知見のほか、海外連携、政府支援のあり方などが論点になる。初回会合では三菱重工の幹部が出席し、開発中止を判断した理由を説明した。

出席した委員からは「国産航空機とは何かという定義を検討した上で、向かうべき政策の方向性を確認する必要がある」との声があった。また「日本の産業界は安全認証のハードルの高さを理解した。国際標準などのルールメーキングへの関与に取り組むべきだ」と指摘する意見も挙がった。

日本の航空機産業の成長に向けては、CNへの対応も急務だ。航空分野では21年10月に国際航空運送協会(IATA)、22年10月に国際民間航空機関(ICAO)において、50年にCN達成を目指すことで合意した。

目標達成に向けては持続可能な航空燃料(SAF)の導入や、水素を利用した新技術の導入など多様な選択肢の組み合わせが欠かせない。航空機の産業構造そのものを変革する可能性があり、検討会では海外、異業種との連携など脱炭素に関する戦略の方向性も議論する。

日本の航空機産業は中小企業を含め、幅広いサプライチェーン(供給網)で構成され、経済波及効果が大きい。防衛産業においても重要な役割を担う。山下局長は「航空機には最先端技術が詰まっている。絶対になくせない産業だ」と強調する。

MSJの開発中止を経て、日本の航空機産業は競争力を維持・強化する上での重要な局面を迎えている。

日刊工業新聞 2023年06月26日

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