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MSJ開発中止ショックから挽回へ、海外も注目する中部航空機関連企業の「技術力」

MSJ開発中止ショックから挽回へ、海外も注目する中部航空機関連企業の「技術力」

名古屋商工会議所で開催した航空機産業のビジネスイベントでは脱炭素化の動向に関心が集まった

コロナ禍を乗り越えて、再び成長分野としての期待が高まっている航空機産業。国内最大規模の産業集積を持つ中部の航空機産業では、航空機需要の回復に期待する声が聞かれるようになり、受注機会の獲得を視野に入れた動きが出始めた。航空機分野でも対応が要請されている脱炭素化という技術の変わり目もチャンスになると見る。国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」開発中止のショックから挽回を図る。(名古屋・鈴木俊彦、津島はるか)

中部経済産業局によると、中部地域の航空機産業の2021年の生産額は4151億円で、全国の約5割を占める。事業所数は105事業所で全国の約3分の1、従業員数は約2万人で同じく4割と高い産業集積を持つ。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、航空機需要の激減が事業に大きな打撃となったものの、コロナ禍からの経済正常化で回復の傾向が見えてきた。名古屋税関がまとめた2月の管内貿易概況によると「航空機類」の輸入額は405億円で、前年同月比11倍と2カ月連続で増加した。地域別に見ると、米国からの輸入が337億円の同16倍、EUからの輸入が49億円の同5・6倍と伸長した。

地域を担う次世代産業として開発動向の行方が注目されていたMSJに対しては、開発凍結から中止への移行が織り込み済みだったとするところが多い。ボーイングから受注しているサプライヤーからは「787、777の復調に期待している」など、多くはすでにフォーカスを切り替えている。

回復の兆しは中・大型機よりも、短・中距離路線で運航する小型機でいち早く現れている。三菱重工航空エンジン(愛知県小牧市、牛田正紀社長)は、欧エアバスの小型機「A320neo」に搭載されるエンジン「PW1100G―JM」の製造、修理の需要を取り込むため生産体制を整える。航空機エンジンの修理・整備(MRO)事業に力が入る。

MROの中枢を担う本社工場(小牧市)では3月に拡張工事を完了した。作業エリアを2割拡大し、機械の最適配置などで工程を効率化。120人いる整備士を26年には200人以上に増員する計画だ。

現在の月産5―6台から、将来的には約3倍の15台を目指す。売上高のMRO比率は、26年度に全体の5割近くに引き上げたいという。

地域の航空機関連企業も回復局面をとらえ、攻勢の機会を狙っている。レーザー加工を得意とするレーザックス(愛知県知立市、近藤大祐社長)は、需要回復に備えて生産体制強化に力を入れる。

航空機のエンジン部品の受託加工は、コロナ禍で開発案件の受注が「今もストップしたまま」(竹内省吾レーザー加工事業部長)という。現在はコロナ禍でも大きな影響がなかった貨物機向けのエンジン部品の加工に対応しながら、仕上げ作業を自動化する装置を開発するなど加工の効率化を進めている。

一方で、航空機のエンジン部品の受託加工で培った技術力を生かし、新たな事業領域を開拓する。発電用ガスタービンエンジンはその一つで、テレワークの定着を背景にサーバーの補助電源として需要が増えている。

「ボーイング、ボンバルディアで少しずつ回復している」という名古屋市の板金加工メーカーは、多品種小ロット対応を強みにチタンなど難削材を使った各種板金部品加工の低コスト化を提案。航空宇宙産業向けの材料販売で10年以上の実績を持つ冷間鍛造用鋼線メーカーは、品質管理のノウハウを生かして航空機部品加工の非破壊検査事業に期待する。

中部の航空機関連企業が持つ技術力には、海外からも注目が高まっている。名古屋商工会議所が在日フランス商工会議所と共催で、3月に開いたビジネスイベント「カーボンニュートラル時代のエアモビリティ」では、仏航空機関連企業が中部の関連企業との連携の重要性を訴えた。

エンジンのメンテナンスを行う仏サフランのオリヴィエ・オードリー代表・日本担当はサプライチェーン(供給網)の観点から「日本からの調達は重要。日本のサプライヤーの協力が要となる」と連携を促した。また、航空分野で水素利用ソリューションを行うスタートアップのH3ダイナミクスホールディングスのベナフラ・サミールJAPAC営業部長は、「アジア、太平洋が重要なキー市場になる。日本企業とパートナーシップを増やしたい」と成長性を指摘した。

同イベントには約200人が参加。海外の航空機関連企業との取引に対する関心の高さがうかがえた。サプライチェーン構築で日本企業に期待が高まる一方で、喫緊の課題としてクローズアップされたのがカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応だ。航空機が排出する二酸化炭素(CO2)は、19年で人間由来のCO2排出量全体の約2%といわれている。今後運航が回復するのに伴い、50年には3倍近くに増えるという見方もある。

脱炭素に対応必須、“変わり目“チャンス

CO2排出削減手法としては機体の軽量化、エンジンの効率化、水素といった代替燃料などがあるものの、実用化には技術革新を待つ必要がある。当面はサプライチェーンの脱炭素化に取り組むことが現実的といえ、仏サフランのオードリー代表・日本担当は「難しいが不可能ではない」とサプライチェーンのグリーン化実現に理解を求めた。

CN対応は必須となり、中部経産局もセミナーを開いてサプライヤーの脱炭素化を支援する。「技術の変わり目を好機ととらえ、次の展開に生かしてほしい」(中部経産局地域経済部航空宇宙・次世代産業課)とし、海外需要の開拓など新たな飛躍を促している。


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日刊工業新聞 2023年05月09日

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