半導体材料探索を高速化、昭和電工が“疑似量子技術”で上げ始めた成果
下準備・後処理、改善課題
昭和電工は実用段階に入った“疑似量子技術”を使いこなし、成果を上げ始めている。組み合わせ最適化問題に特化した富士通の高速情報処理技術「デジタルアニーラ」を使い、半導体材料の最適な配合探索にかかる時間を従来の数十年以上から数十秒へ大幅に高速化した。これで得た配合は約30%高い性能を実現した。
半導体材料は樹脂やフィラー、添加剤などを多様な比率で配合して高性能化している。同社の開発テーマでは配合の組み合わせが10の50乗を超え、古典コンピューターでの計算は実質できなかった。「組み合わせ最適化は“混ぜる”材料の開発に効く。応用範囲は広い」と融合製品開発研究所計算科学・情報センターの奥野好成センター長は力を込める。
組み合わせ最適化問題は、量子コンピューターが得意な計算の一つ。量子は異なる状態を同時にとる重ね合わせ状態に加え、一つの量子の状態が決まると別の量子の状態が決まる相互作用を特徴に持つ。量子コンピューターは2量子ビット間の相互作用を使うことで、表裏に0と1の書かれたコイン2枚の出た面の最大値を調べるのに1回の計算で済む。古典コンピューターは全パターンを調べるため4回計算する。組み合わせが多いほど、時間の差は大きくなる。
デジタルアニーラの技術は「量子アニーリング」とも呼ばれ、量子技術から着想を得た設計で、組み合わせ最適化問題を高速で解く。汎用量子コンピューターのように多様な計算はできないものの、早く実利を得られる。不得意な計算は他の計算機で補えば、幅広い開発に使える可能性もある。
「すでに計算スピードは申し分ない。課題は下準備と後処理だ」と奥野センター長。というのも、デジタルアニーラで計算するために、計算を行う人工知能(AI)モデルを「イジングモデル」という形式に変換しなければならない。人が行うと時間がかかり、メーカーと協力した改善が必要だ。
一方、汎用の量子コンピューターは電子状態の計算に使える。「完成すれば開発がガラリと変わる。だが、時間はかかるだろう」(奥野センター長)。共同事業体などを通じ情報収集を進める。
「素材の開発期間は数年かかる。今は目に見えなくても、水面下で量子関連の取り組みの有無で企業間に少しずつ差が出ているかもしれない」(同)とも。奥野センター長は長年原子や分子の計算に取り組み、計算時間の長さに苦しんできた。それだけに量子技術へ期待する気持ちは大きい。
今使える技術を着実にモノにしつつ、その先も見据える。