【ディープテックを追え】気候変動分析を容易に、東大のシミュレーターを活用
気候変動によって、大型台風の頻発など自然災害のリスクが高まっている。2019年には台風19号の被害で、製造業の生産活動にも影響が及んだ。供給網(サプライチェーン)を維持するために気候変動のリスクを把握した上での対策が必要だ。
ただ、気候変動を正しく捉えるには気象データを分析し検証する専門知識が不可欠だ。Gaia Vision(ガイアビジョン、東京都渋谷区)は、東京大学で研究されてきた洪水シミュレーターを使い、従来よりも簡単に気象データを活用できるようにしている。気候変動リスクを可視化するソリューションを開発する考えだ。
レジリエンスには不可欠
気候変動に対する対策を求められる理由は主に二つだ。一つは自然災害に対するレジリエンス(復元力)強化が求められる点だ。台風などで洪水被害が生じると、企業業績に直結する。製造業では国内外にまたがるサプライチェーンの一つの地域に被害が出ると、生産計画全体の見直しが必要になる。北祐樹代表は「地理的なリスクを事前に把握しておくことがレジリエンスを高めることにつながる」と指摘する。
もう一つが気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言の開示対応だ。短期的には企業活動に影響を与えない気候変動リスクの評価や対策について、投資家向けに開示する仕組みだ。東京証券取引所の最上位に位置する「プライム市場」の上場企業にはTCFD提言に沿った開示が求められる。
ただ、これまでは参考になるデータが少なく、リスク分析が難しかった。国土交通省が公開するハザードマップは気候変動の影響が考慮されておらず、環境省などの気候データは災害リスクのデータがないなど、企業には使いづらかった。
東大発シミュレーターを活用
ガイアビジョンでは東大のグローバル河川氾濫モデル「CaMa-Flood」を使い、企業の拠点や投資先ごとに気候変動リスクを可視化するソリューションを開発する。同モデルは国内であれば30メートル、国外では90メートルの高解像度でリスク分析が可能だという。同社はこのシミュレーターを使い、拠点ごとの物理的リスクと財務的リスクを一覧で表示する。従来、金融機関などが提供してきた環境リスク評価を安価で簡単にできるようにする。8月ごろにベータ版を提供し、製品化に向けて顧客のヒアリングを進める。
足元では気候変動を経営に組み入れる流れは少ないため、防災対策の一環として売り込む予定。北代表は「簡単に気候変動を分析できるようにして、経営計画の一部にしてもらえるようにしたい」と展望を話す。また、現在は洪水のリスク分析が中心だが、将来はそのほかの災害にも対応する。
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