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「TCFD提言」をマンガにした“MBA漫画家”が伝えたいこと

「TCFD提言」をマンガにした“MBA漫画家”が伝えたいこと

サステナビリティ日本フォーラムが公開したTCFDコンパスマンガ

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言を分かりやすく社内で説明したい―。そんな企業担当者の悩みを解消しようと、サステナビリティ日本フォーラム(宮井真千子会長=森永製菓取締役常務執行役員)は「TCFDコンパスマンガ」を作成し、公開した。担当したのは“MBA漫画家”として活躍するかんべみのりさん。生活者にも気候変動を身近な問題と感じられる作品となった。

「(産業革命前からの平均気温が)2度と1・5度なんか0・5度しか変わらんやん」
 「まあわしらには関係ないか」

テレビのニュースを見た家族の会話から漫画は始まる。そこに専門家が登場し、2度C上昇すると豪雨や水不足が深刻になると解説する。環境問題を“人ごと”と思っていたパパは仕事の先行きを心配し、子どもはおやつを買えなくなると不安になる―というのが冒頭の展開だ。

TCFD提言の基本は、気候変動が進んだ将来予測だ。例えば食品メーカーは天候不順で農作物の収穫量が減ると、調達に支障がでる。二酸化炭素(CO2)排出量の上限が決められると、エネルギーを大量に使う工場は操業が難しくなる。企業は事業を継続させようと代替材料の確保や省エネルギー設備の導入といった対策を考える。また、不作による損失額や設備投資額も計算するはずだ。このように未来を想定して影響と対策を検討し、開示する枠組みがTCFD提言だ。

東京証券取引所が4月に新設する最上位「プライム市場」上場企業は、TCFD提言と同等の開示が求められる。経営者は常に市場を読んで次の手を考えている。気候変動による影響も当然のように予測するはずだ。しかし、社内で環境問題と経営の結びつきが理解されず、対策を検討できない企業も少なくない。

こうした課題の解決に貢献しようとサステナビリティ日本フォーラムはかんべさんに漫画化を依頼した。長時間労働やジェンダーギャップ(性別格差)の問題を漫画化したかんべさんでも執筆は苦戦した。それでも、環境問題を自分のことと考えるきっかけになったという。

インタビュー/漫画家・かんべみのりさん 執筆のために勉強、アンテナ張れた

―TCFDは知っていましたか。
 「執筆依頼があって初めて知った。軽い気持ちで引き受けてサステナビリティ日本フォーラムの研修会を見学したら『なんじゃこれ、深いぞ、深いぞ』と思った。『漫画があったらいいのに』って私が思ったほど難しかった」

―環境問題や企業経営、金融など多くの要素が含まれます。
 「慌てて脱炭素とシナリオプランニングの本で勉強した。とにかく調べる階層が深かった。8ページに収まるか不安だった。どのエッセンスを抽出し、何を具体化するのか、内容を理解しないと決められない。どうしよう!と青ざめた」

かんべみのりさん

―執筆してみてどうでしたか。
 「今まで気候変動はチラッ、チラッと視界には入っていたが、勉強してアンテナが張られた。ファストファッションの問題を扱ったテレビ番組にも見入ってしまった。大量廃棄が起き、海外で洋服が大量に埋められている映像はショックだった。自分にも関係することだと感じ、子ども服の選び方を変えた」

―TCFD提言はビジネスの世界で認知されつつありますが、生活者としてはどう受け止めていますか。
 「ちゃんと聞かないと素通りするものだと思う。プラスチック問題もレジ袋も話題になっていると分かっていても、背景まで深く知ることはない。漫画を手伝ったアシスタントの主婦も気候変動を『たいへんなことだ、怖い』と言っていた。漫画にすることで問題の悲惨さが伝わったのだと思う」

―読者へのメッセージをお願いします。
 「個人の努力では限界がある。やはり企業側に動いてほしい。例えば商品の過剰包装をやめると消費者は初めは不便と思うかもしれないが、いずれは慣れる。一人ひとりの行動も大切だが、影響力のある企業がやってくれると世の中が変わる」

日刊工業新聞2022年3月25日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
漫画家の表現、ものの捉え方の違いを感じました。ビジネスの方に限らず多くの方にマンガを読んでもらい、気候変動と将来の生活を考えるきっかけにしてほしいと思いました。TCFD提言は気候危機を認識し、将来も経営が続いている姿を示すモノだと理解しています。定性的な開示だけでなく、戦略を考える枠組みと思っています。

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