“宇宙生活”に着想、ワコール・スノーピークが生んだ「快適ウエア」の性能
無重力空間で楽に動作
“宇宙生活”からヒントを得て、製品を企画・開発する動きが繊維・アパレルメーカーで始まっている。ワコールは無重力空間でボロボロになりやすい点を解決した靴下を開発した。スノーピークとシタテル(熊本市中央区)は共同で、連日着用してもにおいづらいウール素材の宇宙船内服を製作した。従来とは異なる視点で作られた製品は、地上の生活を豊かにすることにもつながるだろう。(京都・新庄悠、大阪・友広志保)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2020年に初めて、将来の宇宙旅行者の満足度向上も見据え、宇宙での生活の質(QOL)を向上させる生活用品のアイデアを企業から募集した。地上における課題の解決や社会的影響なども加味し、9品目を国際宇宙ステーション(ISS)に搭載可能な生活用品として選定した。第1弾選定品は、22年度中に若田光一宇宙飛行士が使用する予定だ。
ワコールは宇宙靴下「アストロソックス」を開発した。ISSでは手すりや面ファスナーに足をかけて身体を固定したり、移動したりする。通常の靴下では滑りやすく生地もボロボロになりやすい。洗濯ができないためにおいも気になるという。同社はスポーツウエアブランドで靴下を展開しており、宇宙飛行士から靴下への悩みを聞いたことから開発を決めた。
アストロソックスは甲部分にシリコンプリントを施しており、靴下生地が手すりや面ファスナーに直接当たるのを防げる。クッションや滑り止めの役割も果たす。このほか足を使って身体を固定するのを楽にできるサポーターや、抗菌・消臭機能、地厚生地などを採用している。足への意識が減ることで集中度が増し、任務の作業効率やQOLの向上が見込める。
同社の担当者は「宇宙では足の役割が変わる。実際に装着した宇宙飛行士から意見を聞ければ、今後の宇宙靴下の進化や地上での応用・活用が見えてくる」と期待を示す。
衣服生産のプラットフォーム事業を運営するシタテルとスノーピークは、「究極のノンストレス・ウェア」をテーマにISS内で着用する衣服を開発した。22年秋にスノーピークの店舗で発売する予定だ。
着心地の良さで人気がある縫製不要の無縫製編製を大部分のパーツで採用。素材はニッケの糸「アクシオ」を使った。ウールの繊維束の内側にフィラメントを包み込み強度を高めている。ウールは毛玉ができても残りにくく、きれいな見た目が長続きするほか、においづらいなどの特徴を持つ素材だ。
ニッケの金田至保常務執行役員衣料繊維事業本部長は「アクシオが宇宙に飛んでいくということで、今回の(宇宙船内服への)採用は顧客へのアピール材料になる」と話す。
若田飛行士のISS長期滞在時に搭載される9品目は、飛行士から使用感などの感想を取得し、公表予定。企業が地上で得られない貴重な情報をどう生かすか注目だ。