宇宙にアプローチする資生堂、花王、ライオン。それぞれの思惑
化粧品・日用品メーカーが宇宙へのアプローチを進めている。資生堂はロシア科学アカデミー(RAS)などと閉鎖環境におけるストレス評価の共同研究を始めた。花王、ライオンがそれぞれ水の利用が限られる環境で使えるよう開発したヘルスケア品は、2022年にも国際宇宙ステーション(ISS)に搭載される。宇宙生活の課題を解決する取り組みだが、宇宙、地上双方の暮らしの改善に役立つ可能性もある。(縄岡正英)
資生堂が参加したのは、RASなどが進める国際研究プロジェクト「シリウス」。月や火星への有人宇宙探査に向けて、長時間の閉鎖環境における生活が宇宙飛行士の心身に与える影響を調べる。
6人の被験者が6月までの8カ月、外界から遮断された地上の施設内で過ごす。資生堂がここで担うのは、顔の表情を遠隔で計測してストレスを評価する研究。他の要因を除去できる閉鎖環境で、どの程度のストレスまで計測できるか試す。
化粧品メーカーと宇宙は一見、縁遠い。だが資生堂みらい開発研究所の江川麻里子主任研究員は「天体観測と皮膚計測には親和性がある」と語る。健康な皮膚の個人差はごくわずか。微弱な星の光を観測するのと同様、肌測定には分光測定を使う。天文学に興味があった江川研究員は「この技術で宇宙に関わり未来につながる研究ができる」と考えた。
16年から宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で取り組んだのは、資生堂が強みとするストレス測定技術。皮膚、唾液などを使う手法も調べたが、簡便に遠隔計測できる点で顔の表情から評価する技術に有用性が高いことが分かった。
「一般的なカメラさえあれば、場所を選ばず容易に計測できる」(同)。それは宇宙に限らず、地上における遠隔診療などにも応用可能なことを意味する。リモートワーク中の社員のストレスを遠隔で察知できるかもしれない。「シリウス」には産業医が参加しているほか、精神科医も興味を示している。
20年前の宇宙飛行士のストレスを緩和する香りの研究に始まり、「シリウス」につなげた資生堂。将来、美と健康の分野で事業に生かせるとみている。
ヘルスケア商品を宇宙で試す別の取り組みもある。花王は汚れを拭き取りやすい衣類用清浄シートと洗髪シートを、ライオンはすすぎが容易な歯みがきをJAXAのアイデア募集にそれぞれ提案。ISS搭載が決まった。
花王の2品は洗浄液を含浸させた不織布シート。ライオンの歯みがきは水分を多く含ませた泡状タイプ。ともに使用する際に水を必要としない。水が貴重な宇宙での利用を目的としているが「地上でも災害時や医療・介護の現場、水不足が深刻な国・地域での応用につながる」と両社の担当者は口をそろえる。
日本政府は21年末、宇宙基本計画の工程表を改定し、「20年代後半に日本人の月面着陸を目指す」という目標を掲げた。ロケットなどの機器だけでなく、ヘルスケアに関する開発も本格化している。