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“空の移動ビジネス”離陸迫る、「ドローン」「空飛ぶクルマ」実証相次ぐ

“空の移動ビジネス”離陸迫る、「ドローン」「空飛ぶクルマ」実証相次ぐ

英バーティカルエアロスペースが開発するeVTOL(イメージ、丸紅提供)

総合商社が飛行ロボット(ドローン)や空飛ぶクルマなどの「エアモビリティー」を活用した事業展開を目指し、実証や協業に相次いで乗り出している。国内外企業とのネットワークや他事業で培った知見を生かし、物流業界の人手不足といった社会課題を解決する。政府は2022年度内にドローンの有人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル4)解禁を目指しており、「空の移動」ビジネスが本格的に始まる日は近い。(森下晃行)

【豊田通商など】医薬品、米社ドローンで配送

「過疎地域の物流における人手不足を解決する」―。長崎県の五島列島でドローン配送事業を始めた、そらいいな(長崎県五島市)の土屋浩伸ヘッド・オブ・オペレーション(配送統括責任者)は力を込める。同社は豊田通商のグループ企業。アフリカでドローン事業を展開する米ジップライン・インターナショナルの技術や機体を活用し、列島の医療機関・薬局へ医療用医薬品を配送する。

マルチコプター型ドローンは一般的に10―20キロメートル程度しか活動できないが「ジップラインは拠点を中心に半径80キロメートル内まで物資を届けられる」(土屋氏)ため実現できた。毎秒14メートルの風や毎時50ミリリットルの雨の中でも稼働でき、気象条件に左右されにくい点も有用という。今後は医薬品以外の配送も検討している。

伊藤忠商事も物流事業を模索している。3月末にドローン開発・製造企業の独ウイングコプターと資本業務提携や販売代理店契約を結んだ。固定翼タイプのジップラインとは異なり、ウイングコプターは三つ以上の回転翼を搭載するマルチコプター型ドローンを開発する。一度のデリバリーで3カ所に物資を配送可能な機能を有する点が特徴だ。災害時の救援物資の輸送や、日用品の配送といった消費者に近い川下分野の事業創出を目指す。

独ウイングコプターが開発するドローン(伊藤忠商事提供)

他にも、重量物の輸送にたけたドローンや空飛ぶクルマを開発するスカイドライブ(愛知県豊田市)にも出資している。「ここ数年は(エアモビリティーの)黎明期。プロモーションや実証を通じ事例創出に取り組む」と伊藤忠機械カンパニー航空宇宙第三課の中田悠太氏は説明。「20年代半ばからの本格的な事業展開になりそう」(中田氏)という状況だ。

【ドローンビジネス市場規模】27年度7933億円

インプレス(東京都千代田区)の調査によると、国内ドローンビジネスの市場規模は27年度には7933億円に達する見通し。物流分野は24年度頃から本格的に立ち上がり、27年度には800億円程度になると見られる。

22年度中にレベル4が解禁されると本格的なビジネス展開が後押しされる。ただ、課題の一つが「人々に受け入れられるかという社会受容性」(伊藤忠機械カンパニー)。上空をドローンが飛び交うことに安全面の不安や心理的な抵抗を覚える人は多く、まずは山間部や離島で実用化が進みそうだ。

【住商など】管制システムに商機

一方、エアモビリティーの管制システムに商機を見いだした商社もある。住友商事は東北大学や米スタートアップのワンスカイシステムズと共同で、交通制御技術に関する実証を進めている。複数のエアモビリティーが飛び交う空間では、最適な航路や運航ダイヤの管制が求められる。膨大なデータを即時的に処理するため、計算能力に優れる量子コンピューターを活用する。

運用開始時期は「規制次第だが5―10年先を想定している」(住友商事の航空事業開発部小林充明営業企画推進チーム長)。技術的には実用化目前の段階まで至っているという。また、千葉県勝浦市でドローンを使った地域物流の実証を始めるなど、運用に向けた知見も蓄積している。

三井物産は2月に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)やテラドローン(東京都渋谷区)と共同でエアモビリティーの空域管理に関する実証を実施した。ヘリコプターやドローンは現在、独自の運航管理システムで運用されている。それらを統合してデータを共有し、機体の位置情報などを認識できるようにした。

目の前の目標は25年に開催予定の大阪・関西万博だ。「期間中に急病人が発生し、ドローンが飛んでいる空域に救助のヘリコプターが飛来する」というシナリオを想定して実証を行った。将来的には「ドローンを空飛ぶクルマに置き換えても事故が起こらないようなシステムの実現を目指している」(三井物産モビリティ第二本部)という。

【丸紅】空飛ぶクルマ運用へ

丸紅は空飛ぶクルマを使ったサービスに目を付けた。電動垂直離着陸機(eVTOL)を開発する英バーティカルエアロスペースと21年に業務提携を結んだ。バーティカルは世界の名だたるエアモビリティー関連企業と協業実績を有する。機体の安全性と環境適合性が一定の基準を満たすことを証明する「型式証明を取得できる可能性が高い」(丸紅の航空宇宙・防衛事業部航空第三課の吉川祐一課長)と見ている。

今後はエアタクシーなどの「運航事業に入っていきたい」(吉川課長)としており、25年の事業開始を想定。30年代に約5地域で100―200機程度の運用を目指す。

【双日】ビジネスジェットに注目

ドローンや空飛ぶクルマとは異なる「空の移動」に着目した商社もある。双日は21年、ヘリの遊覧飛行事業を手がけるエアーエックス(東京都新宿区)に出資した。

同社はヘリの運航会社と利用者をマッチングするプラットフォームを運営する。「双日のビジネスジェットのチャーター事業と組み合わせ、日本におけるビジネスジェットの利用促進と市場拡大を目指している」(双日航空事業部ビジネスジェット事業課の梅本響氏)。今後はビジネスジェットの手配をより簡潔にできるようサービスを拡充していく。

【実用化への工程表】25年大阪・関西万博 目標

25年の大阪・関西万博がエアモビリティーの実用化における一つの目標地点だ。経済産業省と国土交通省が事務局を務める「空の移動革命に向けた官民協議会」は、利活用の時期を想定したロードマップを策定している。

人や物の移動に関しては22年度から25年度にかけて試験飛行・商用運航が始まり、20年代後半から商用運航が拡大していく見通し。機体の安全性に関する基準の整備、インフラの構築といった課題が残るものの、商社の取り組みによるビジネスの広がりに期待がかかる。

日刊工業新聞2022年5月6日

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