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さすがゴーンさん、でも「世界一」の実力は本物なの?

日産・ルノー・三菱連合、規模からシナジーを生み競争力に落とし込めるか
さすがゴーンさん、でも「世界一」の実力は本物なの?

ゴーン氏と三菱自の益子会長

 日産自動車と仏ルノー、さらに昨年10月に日産傘下に入った三菱自動車を含めた3社連合の2017年上半期(1ー6月)の世界販売台数が前年同期比7%増の526万8000台になり、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)やトヨタ自動車を抜きグループとして初の世界首位が確定した。3社は今後、収益向上に向けた取り組みを加速させる。

 日産は新設計手法「コモン・モジュール・ファミリー(CMF)」を採用する中型車について、2022年までに年産台数を現在比2割増の190万台超に引き上げる。日産、仏ルノーが対象車種を増やし、三菱自も加わる。設計・調達コスト削減とともに商品力を底上げし、3社連合で世界シェアを上げる考え。

 CMFは日産とルノーが開発した設計手法。エンジンルーム周辺やボディー下部の前・後部など五つのモジュールに分けて開発・組み合わせ、小型から中型車までさまざまな車種を効率良く開発する。設計コストは40%減、調達コストは30%減が見込めるという。

 日産は13年にCMFを多目的スポーツ車(SUV)「エクストレイル」を皮切りに、SUV「キャシュカイ」にも採用した。CMFは車格ごとに3タイプあり、CMF―C/DはSUVやミニバンなどの中型車向け。日産とルノーのCMF―C/Dを採用した車両の年間生産台数は、16年で160万台だった。

 19年にもCMF―C/Dを、三菱自がSUV「アウトランダー」の新型車で適用する見通し。日産やルノーも採用車種を増やす。これにより日本と中国、韓国では日産とルノーと三菱自、英国やフランスなどの欧州は日産とルノー、米国は日産が同手法による中型車を生産する形となる。

 VWやトヨタなど年間販売1000万台超の自動車メーカーは、モジュール開発を推進している。トヨタは20年頃までに新設計手法「TNGA」を世界販売台数の半数に導入する計画。日産も1000万台体制に向け開発・生産基盤を固める。

サプライヤーも枠組み超えて


 一方、サプライヤーの連携も活溌化してきた。日産系サプライヤーのユニプレスは、三菱自の主要サプライヤーであるメタルテック(愛知県小牧市)と自動車部品の開発や生産で協業する。日産が開発・調達を主導し、三菱自が2018年末にも水島製作所(岡山県倉敷市)で生産する次期軽自動車向け骨格部品の共同提案を始めた。

 次期軽は日産「デイズ」と三菱自「eKワゴン」の後継モデルに当たる。部品を受注した場合、メタルテックの岡山市の拠点で生産する計画だ。ユニプレスは水島製作所の近くに工場がない。次期軽の受注に向けては、投資コストや物流面を考慮し、三菱自サプライヤーとの協業が欠かせないと判断したようだ。

 ユニプレスは今後、次期軽以外の三菱自向けの車種でもメタルテックと協業し、三菱自向けビジネスの拡大を狙う。ユニプレスの16年度の三菱自向け部品の売上高は1億円にとどまっていた。

 日産と三菱自の提携により今後、部品調達は一本化される可能性がある。勝ち残りに向け両社の部品メーカーが手を組む同様の動きは広がりそう。日産と取引が多いサプライヤーの中には「三菱自のサプライヤーと協業できないか検討している」(日産系サプライヤー幹部)と水面下で動き始めている企業もある。日産と三菱自の提携をきっかけに、両社のサプライヤーのビジネスモデルも変わりそうだ。

数字の積み上げでは競争力にならない


 1ー6月期で3社グループは初の販売台数トップに立った。しかし単なる数字の積みあげで競争力が拡大するわけではない。日産・ルノーの世界戦略は、標準化を進め、共通化と規模拡大を競争力の源泉に置こうとする。

 しかし、もはやトヨタは規模以外にその源泉を見出そうとする。VWもホンダも考え方は変わった。数字合わせで伸ばそうとしても、三菱自が簡単にフィットし効果を発揮するとは言い切れない。標準化を進め過ぎれば、アジアに強い三菱自の持ち味すら失いかねない。

 3社のマネジメントのトップに立つカルロス・ゴーン日産会長は「ルノーは主に欧州とロシアとブラジルでプレゼンスが高い。日産は北米、中国、日本で強く、三菱自は東南アジアで強い。強みが多様化しているのは利点だ。消費者にとっていいことではないか。スケールがあるからコスト効率化でき、価格設定も競争力が高いものになる。商品群も広くなる。違う会社が複数のブランドを扱っている。1社が複数のブランドを扱うよりアライアンスの方が豊かだ。これがアライアンスならではのことだ」と話す。

 大幅なスリム化を果たしている三菱自だが、開発や国内販売領域には大きな改革余地がある。シナジーは共同購買の効果を超えて、開発、設計、調達の領域に一気に拡大が望める。課題は、個別モデルの個性を生み出し、いかに品質費用をコントロールしていくかにある。
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
流石ゴーンさん。暫く、トップの座を固める可能性が高そうだ。ただし、トヨタ、VWは数量を追う経営から離れ、GMに至っては新しいビジネスモデルへ急速に舵を切った。自動車産業にとって規模は間違いなく競争力だが、そのコントロールも難しい。先行各社は、品質問題や経営管理で痛いつまずきを経験した。ルノー・日産・三菱連合は、単なる足し算から、規模からシナジーを生み出し競争力に落とし込んでいけるのかが鍵である。少なくとも、現状のルノー・日産・三菱連合の各地域での競争力は、それ程の強さや脅威を感じられない。

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