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マツダが生き残るために大切にする7つの軸

モノづくりからブランド戦略に至るこだわりとは?
マツダが生き残るために大切にする7つの軸

本社工場と圓山常務執行役員

 F 2020年にはシェアを5%にしようとか、そういう計画はないのですか。
 藤 ないです。あり得ない。

 これは、自動車ジャーナリストの第一人者、フェルディナント・ヤマグチ氏の著書『仕事がうまくいく7つの鉄則』に掲載されている、著者(F)による、自動車メーカー・マツダの常務執行役員、藤原清志氏(藤)へのインタビューでのやりとりだ。現在の世界の自動車市場でのマツダのシェアは2%ほど。それを、4年後に5%にまで拡大しようとしているのか、という問いに対して、マツダの役員が「それはない」と言い切っているのだ。

 「シェア拡大をめざさない=向上心がない」ということではない。マツダはシェアを取ることが企業の「目的」になることのリスクを知っているのだろう。たとえば、他社の動きに合わせて同じような方向性の製品を世に出し、結果として価格競争に巻き込まれる、といったことだ。マツダにも、過去に大幅な値引き策をとった結果、ブランドを毀損し、安売り会社のイメージがつくという苦い経験がある。

 マツダはシェア拡大路線から離脱し、独自の道を歩んでいる。既存の「2%」の顧客が心から満足するクルマづくりを進め、他社とは「違う」ブランドを築く方針を固めている。それについて、前出の藤原氏は同インタビューで次のような発言をしている。

 「ウチは日本市場でも5~6%のシェアしかないけれども、その5~6%の人たちは、少なくともクルマに乗っているときは、みんな幸せな人生を歩んでくれると。それが徐々に広まっていって、7%になるか8%になるか。そんな増え方がいいのかなと思っています」

 『仕事がうまくいく7つの鉄則』は、藤原氏のほかマツダの社員数名へのインタビュー、著者によるマツダの工場見学などで構成され、冒頭にそれらから導き出された次の「7つの鉄則」が示されている。

 「小さいことを恥じない」「ライバルすらも褒めまくる」「ブレない価値の基準を持つ」「相手が喜ぶことを常に優先する」「ほかの真似を決してしない」「熱意だけではダメ。交換条件を必ず用意する」「世の中の流れに簡単に乗らない」。これらの字面だけを見ても、マツダが確固たる「軸」をもち、それを武器にしていることがわかるのではないだろうか。

 そして独自の次世代技術「スカイアクティブ」で成功を収め収益体質を強化してきたマツダ。その成長を支えてきたのが生産と開発部門の連携による「モノ造り革新」だ。

 商品の競争力を高める多様性と、規模の効率を高める共通性という相反する特性を両立するための「モノ造り革新」は、世界販売150万台の中堅クラスのマツダが生き残りをかけて2006年に始めた。

 菖蒲田清孝専務執行役員は、「1ドル=80円を切っても収益が上げられる構造改革を進め、円高でも強い体制ができている」と成果に自信をみせる。

 マツダで最も古い車両工場、本社工場(宇品第1工場=広島市南区)。組み立てラインには、「ロードスター」「CX―3」などオープンカーからミニバンまでが同じラインを流れる。組み立て作業はよどみなく進む。生産・物流担当の圓山雅俊常務執行役員は「混流生産は宇品第1が一番うまい」と胸を張る。
 
 混流生産を徹底させるうえでマツダが旗印として掲げてきたのが「計画順序生産」。1台単位で生産する順番を決めて、工場では実際にその通りクルマを作り、部品メーカーの工場も同期して順番通りに部品を生産納入するというもの。02年に部品メーカーを巻き込んで開始した。

 その実施に奮闘した1人が圓山氏だ。生産順序を守るためには製造品質を大幅に高める必要がある。1台でも不具合が生じてラインから跳ね出されれば、即、順序が狂うからだ。

 当時最も不具合が多かったのが塗装。数マイクロメートルのホコリが付着していても不具合につながる。工場でゴミやホコリが発生する膨大な数の要因を突き止め、つぶしていった。入社後約15年間塗装技術に携わってきた圓山氏の経験が生きた。「当初部品メーカーには疑心暗鬼もあった。ラインを止めても生産順序を守ると言って信頼を得てきた」と振り返る。
 
 2018年3月期は過去最高となる160万台(前期比2・6%増)のグローバル販売を目指すマツダ。スポーツ多目的車(SUV)の新型「CX―5」の拡販や、新型3列シートSUV「CX―8」の発売により、前期落ち込んだ日米での販売を増加に転じさせる。

 一方で今後数年間は、まさに足場固めの時期でもある。次世代のスカイアクティブはより技術難易度が高くコストの壁もある。ただ、マツダの場合、自らの「軸」や方向性が「独りよがり」にならないように、既存の顧客を言わば“モニター”のように捉えている。

 つまり、同社の価値観と方向性に共感しているであろう既存の顧客が満足することを基準にして開発・生産を進め、市場に投入して反応を見る。そしてその結果を前提としてさらなる開発や改善を行う。そうすれば、軸をブラさないまま少しずつ新しい挑戦をしていくことができる。

<講演会のお知らせ>


【日時】 7月12日(水)14:00~15:00
【会場】 東京ビッグサイト・東6ホール特設メインステージ(MF―Tokyo2017)
【講演】 「マツダのブランド戦略とモノ造り革新について」
【講演者】 マツダ株式会社 取締役専務執行役員 
      品質・ブランド推進・購買・生産・物流統括 菖蒲田 清孝氏
※事前登録で展示会入場料(1,000円)が無料になります。

聴講申し込みはこちうら
2016年05月16日情報工場 「読学のススメ」の記事を加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
昨年は新車投入があまりなかったマツダ。日米の販売で停滞感があった。今年はやや勢いを取り戻した感がある。ただ今後はEVなど新領域の事業展開も待っている。ちょうど菖蒲田さんの講演が近々あるので、最新の戦略をぜひ聞いてみてはいかが。

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