川重「ボーイングにもっと食い込んで一緒にやっていきたい」
事業協力強化で合意、その先に見据えるもの
川崎重工業は21日、米ボーイングと民間航空機事業の協力強化で合意したと発表した。ボーイングが今後開発する航空機事業における協力の在り方を検討するほか、機体部品事業ではサプライチェーンの効率化やコスト削減を共同で進める。ボーイングは欧エアバスと激しい受注合戦を繰り広げており、川重と連携して競争力を高める狙いだ。
フランス・パリ郊外で現地時間19日から開催されている航空宇宙産業展「パリ国際航空ショー」で合意した。川重はボーイング向けに胴体などを生産。対象機種は「767」から最新機の「777X」まで広範囲にわたる。
今回の協業では先進の生産技術などを共同開発し、機体の生産コスト低減につなげる。また、川重にはボーイングの新機種開発に初期段階から関わることで、将来機への参画を有利に進める狙いもありそうだ。
常務執行役員の並木祐之は、これまでとは違う心境で米国シカゴの地に降り立った。2016年11月。米ボーイングの本社に米ゼネラル・エレクトリックや三菱重工業など、世界の重工メーカーが一堂に会した。年1回ほど開催されるサプライヤーミーティングの一幕。並木が川崎重工業の航空機部門である航空宇宙カンパニーのトップとして臨む、初めてのミーティングだった。
民間航空機分野で川重は、胴体などを手がけるティア1(1次サプライヤー)としての顔を持つ。メーン顧客であるボーイング向けは、78年から国際共同開発に参画。「767」「777」「787」向けなど、約40年にわたり実績を積み重ねてきた。
ボーイングの主力工場を訪ねた並木は、スケールの大きさに言葉を失った。1日2機程度を組み上げる能力を持つ同工場。並木の頭にある思いがよぎる。「驚きとともにうらやましかった。航空機メーカーの目指す世界がそこにあった」。
機体メーカーとして不動の地位を獲得した川重。ただ、あくまでサプライヤーの範ちゅうに留まる。並木は「当社が手がけるのはいくら大きくても、構造部品にすぎない」と真情を吐露する。
それは機体部品だけでなく、機体全体をまとめる事業に近づけたい意思の表れでもある。「そうしないと我々の未来も限られてしまう」と並木。将来は「開発初期段階からの参画を目指す」と力を込める。
実際、川重にはそのポテンシャルがある。防衛省向けでは、固定翼哨戒機「P1」や輸送機「C2」といった完成機を製造。並木は「年間数機とはいえ、これだけのことをやっているのは日本で当社だけ」と胸を張る。
防衛省向けで培ったシステムインテグレーションの能力を生かし「ボーイングにもっと食い込んで一緒にやっていきたい」(並木)。防需の誇りは民需へと受け継がれていく。サプライヤーから完成機の領域へ―。飛躍の時を誓う。
民間航空機用ジェットエンジンを丸ごと作れる能力を有しているが、自主ブランドを持たない日本。国産エンジンの開発は、日本の航空機産業の悲願だ。現在はIHIや川崎重工業、三菱重工業などが、欧米エンジンメーカーの国際共同事業に参画。部品製造を担うサプライヤーとしての地位を確立している。
「民間航空機エンジンで世界のメーンプレーヤーになりたい」。川重の航空機エンジン部門を統括する常務取締役の久山利之は、虎視眈(たんたん)と“その時”に備える。
米ゼネラル・エレクトリックや同プラット&ホイットニー(P&W)、英ロールス・ロイスといったエンジンメーカーと、対等な立場で開発の初期段階から関わることを目指す。
久山は「いきなりオール国産とはいかない」とした上で、開発・製造を手がけるOEM(オリジナル・イクイップメント・マニュファクチャー)を志向。「2030年にはOEMの仲間入りをする」と力を込める。
ただ、エンジン開発には高い技術力はもちろん、実績に裏打ちされた信頼性が不可欠。今後数年でその基盤固めを加速する。OEM参入の前提となる知見やノウハウ獲得に向け重要視するのが、エンジンの修理・整備(MRO)事業だ。
久山は「早ければ21年度に民間エンジンのMRO事業に参入する」と計画を説明。航空機エンジンのMRO事業はこれまで防衛省向けに実施。「基盤になる技術はある」と自信を示す。
このため、18年度にも明石工場(兵庫県明石市)内にMRO工場を新設する考え。まずはP&Wなどが開発し、欧エアバスの「A320neo」に搭載する「PW1100G―JM」のMROを手がける方針だ。
とはいえ、先行する巨人たちと真っ向勝負するわけではない。推力10万ポンド級の大型エンジンではなく、「中・小型エンジンのプレーヤーを目指す」と久山。国産機が世界の空で、エンジン音を奏でる日を心待ちにする。
(敬称略)
フランス・パリ郊外で現地時間19日から開催されている航空宇宙産業展「パリ国際航空ショー」で合意した。川重はボーイング向けに胴体などを生産。対象機種は「767」から最新機の「777X」まで広範囲にわたる。
今回の協業では先進の生産技術などを共同開発し、機体の生産コスト低減につなげる。また、川重にはボーイングの新機種開発に初期段階から関わることで、将来機への参画を有利に進める狙いもありそうだ。
日刊工業新聞2017年6月22日
防需の誇りを民需へ
常務執行役員の並木祐之は、これまでとは違う心境で米国シカゴの地に降り立った。2016年11月。米ボーイングの本社に米ゼネラル・エレクトリックや三菱重工業など、世界の重工メーカーが一堂に会した。年1回ほど開催されるサプライヤーミーティングの一幕。並木が川崎重工業の航空機部門である航空宇宙カンパニーのトップとして臨む、初めてのミーティングだった。
民間航空機分野で川重は、胴体などを手がけるティア1(1次サプライヤー)としての顔を持つ。メーン顧客であるボーイング向けは、78年から国際共同開発に参画。「767」「777」「787」向けなど、約40年にわたり実績を積み重ねてきた。
ボーイングの主力工場を訪ねた並木は、スケールの大きさに言葉を失った。1日2機程度を組み上げる能力を持つ同工場。並木の頭にある思いがよぎる。「驚きとともにうらやましかった。航空機メーカーの目指す世界がそこにあった」。
機体メーカーとして不動の地位を獲得した川重。ただ、あくまでサプライヤーの範ちゅうに留まる。並木は「当社が手がけるのはいくら大きくても、構造部品にすぎない」と真情を吐露する。
それは機体部品だけでなく、機体全体をまとめる事業に近づけたい意思の表れでもある。「そうしないと我々の未来も限られてしまう」と並木。将来は「開発初期段階からの参画を目指す」と力を込める。
実際、川重にはそのポテンシャルがある。防衛省向けでは、固定翼哨戒機「P1」や輸送機「C2」といった完成機を製造。並木は「年間数機とはいえ、これだけのことをやっているのは日本で当社だけ」と胸を張る。
防衛省向けで培ったシステムインテグレーションの能力を生かし「ボーイングにもっと食い込んで一緒にやっていきたい」(並木)。防需の誇りは民需へと受け継がれていく。サプライヤーから完成機の領域へ―。飛躍の時を誓う。
「民間エンジンで世界のメーンプレーヤーになりたい」
民間航空機用ジェットエンジンを丸ごと作れる能力を有しているが、自主ブランドを持たない日本。国産エンジンの開発は、日本の航空機産業の悲願だ。現在はIHIや川崎重工業、三菱重工業などが、欧米エンジンメーカーの国際共同事業に参画。部品製造を担うサプライヤーとしての地位を確立している。
「民間航空機エンジンで世界のメーンプレーヤーになりたい」。川重の航空機エンジン部門を統括する常務取締役の久山利之は、虎視眈(たんたん)と“その時”に備える。
米ゼネラル・エレクトリックや同プラット&ホイットニー(P&W)、英ロールス・ロイスといったエンジンメーカーと、対等な立場で開発の初期段階から関わることを目指す。
久山は「いきなりオール国産とはいかない」とした上で、開発・製造を手がけるOEM(オリジナル・イクイップメント・マニュファクチャー)を志向。「2030年にはOEMの仲間入りをする」と力を込める。
ただ、エンジン開発には高い技術力はもちろん、実績に裏打ちされた信頼性が不可欠。今後数年でその基盤固めを加速する。OEM参入の前提となる知見やノウハウ獲得に向け重要視するのが、エンジンの修理・整備(MRO)事業だ。
久山は「早ければ21年度に民間エンジンのMRO事業に参入する」と計画を説明。航空機エンジンのMRO事業はこれまで防衛省向けに実施。「基盤になる技術はある」と自信を示す。
このため、18年度にも明石工場(兵庫県明石市)内にMRO工場を新設する考え。まずはP&Wなどが開発し、欧エアバスの「A320neo」に搭載する「PW1100G―JM」のMROを手がける方針だ。
とはいえ、先行する巨人たちと真っ向勝負するわけではない。推力10万ポンド級の大型エンジンではなく、「中・小型エンジンのプレーヤーを目指す」と久山。国産機が世界の空で、エンジン音を奏でる日を心待ちにする。
(敬称略)
日刊工業新聞2017年3月3日/7日