中国クルマ市場、変わる価値観。楽しさ・快適さ求める
地場メーカーの存在感高まる。日本勢、規模と質をどうバランスさせるか
中国の自動車市場が変わり始めた。燃費や外観を重視してきた自動車ユーザーが、オーディオやスマートフォンとの連携など車内での“楽しさ”“快適さ”を求めるようになってきた。自動車各社も自社開発やベンチャー企業とタッグを組んで、エンターテインメント性やデジタル機器との連携など新たな付加価値の創出を追求する動きが出ている。じ
「中国市場での成長戦略の柱の一つとして、今後はサウンド分野に力を入れる」。パイオニア中国の磯政之社長は、音響システム事業の強化に意欲を示す。
パイオニアはこのほど、現地自動車メーカーの長安汽車向けに音響システムを個別開発。長安汽車が3月に発売したスポーツ多目的車(SUV)に採用された。車内の前方・後方ドアや中央部など計10カ所にスピーカーを設置し、強みの音響調整技術を駆使して、中国人が好むなめらかで穏やかな音質を実現した。
同社は従来、日系完成車メーカーを主要顧客としていたが、今後の成長性を見据えて中国市場に着目。市場を開拓する上で「地場のメーカーに入り込むことが重要」(パイオニア中国の担当者)と判断し、システムの生産から調整までを初めて現地で手がけた。
長安汽車から高い評価を得ており、今後ほかの車種にも採用される見込み。「ほかにも4―5社程度の地場メーカーへ導入が決まっている」(磯社長)という。
中国は2009年に年間自動車販売台数が1364万台に達し、米国を抜いて世界最大市場となった。以来、16年まで8年連続で世界トップの座を維持している。自動車保有率の高まりとともに、消費者のニーズも変化しており、完成車メーカーにとっても、新技術をいち早く取り入れたクルマ作りが重要性を増している。
現地の電気自動車(EV)メーカーの比亜迪汽車(BYD)は「外観よりも、車内の性能を気にする消費者が増えている」(ゴン・ウェイセールスマネージャー)と需要の変化を分析。同社はこのほどスマートフォン(スマホ)と連携可能なディスプレーを自社開発し、4月に発売したプラグインハイブリッド車(PHV)に搭載した。
スマホでダウンロードした映画をディスプレーに表示したり音楽を聴けたりするほか、万が一事故が起きてもネットワークを通じて家族への連絡などが可能だ。
ゴンマネージャーは「地場メーカーである我々には、中国人が何を求めているかがよくわかる」と、海外勢と比べた優位性を強調する。引き続き、ネットワーク対応の技術開発を進め、商品価値を高める考えだ。
自動車ユーザーの意識の変化とともに、メーカーの取り組みも変わってきた。ホンダは、現地企業との幅広い分野での協業を通じて未来のクルマ作りにつなげる。中でも注目するのが、独自技術の開発やサービスを手がけるベンチャー企業との連携だ。
本田技術研究所の脇谷勉執行役員は「オープンイノベーションに対するモチベーションが高い上に、イノベーティブなアイデアを出しやすい点には期待している」と、現地ベンチャー企業の潜在力を強調する。
今後は中国で、人工知能(AI)やビッグデータ(大量データ)などさまざまな技術を活用したオープンイノベーションを加速するほか、将来はオープンイノベーションのための研究開発拠点設立も計画する。
ベンチャー企業による自動車産業への参入機運も高まっている。16年3月に設立したカームカーは、自動車向けに先進安全技術などの導入を狙う。
AIを活用して運転者のふるまいを解析した上で、警告などにより事故を未然に防ぐ。ワン・シー最高経営責任者(CEO)は「17年中に1000台の自動車への導入を目指す」と意気込む。
セキュリティーシステムなどを手がけるシダナ・コーポレーションは、スマホを使って自動車ドアのロックや、乗車前のエアコン操作が可能なアプリケーションを開発中だ。
自動車産業では、自動運転や電動化など新技術が台頭しており、業種や企業規模の垣根を越えた大競争時代に突入している。巨大市場の中国で、大手メーカーの研究開発リソースと現地ベンチャー企業特有の独創性が組み合わされれば、グローバル市場をけん引する中国発の技術革新を起こせる可能性も高まる。
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(中国・広州=土井俊)
「中国市場での成長戦略の柱の一つとして、今後はサウンド分野に力を入れる」。パイオニア中国の磯政之社長は、音響システム事業の強化に意欲を示す。
パイオニアはこのほど、現地自動車メーカーの長安汽車向けに音響システムを個別開発。長安汽車が3月に発売したスポーツ多目的車(SUV)に採用された。車内の前方・後方ドアや中央部など計10カ所にスピーカーを設置し、強みの音響調整技術を駆使して、中国人が好むなめらかで穏やかな音質を実現した。
同社は従来、日系完成車メーカーを主要顧客としていたが、今後の成長性を見据えて中国市場に着目。市場を開拓する上で「地場のメーカーに入り込むことが重要」(パイオニア中国の担当者)と判断し、システムの生産から調整までを初めて現地で手がけた。
長安汽車から高い評価を得ており、今後ほかの車種にも採用される見込み。「ほかにも4―5社程度の地場メーカーへ導入が決まっている」(磯社長)という。
中国は2009年に年間自動車販売台数が1364万台に達し、米国を抜いて世界最大市場となった。以来、16年まで8年連続で世界トップの座を維持している。自動車保有率の高まりとともに、消費者のニーズも変化しており、完成車メーカーにとっても、新技術をいち早く取り入れたクルマ作りが重要性を増している。
現地の電気自動車(EV)メーカーの比亜迪汽車(BYD)は「外観よりも、車内の性能を気にする消費者が増えている」(ゴン・ウェイセールスマネージャー)と需要の変化を分析。同社はこのほどスマートフォン(スマホ)と連携可能なディスプレーを自社開発し、4月に発売したプラグインハイブリッド車(PHV)に搭載した。
スマホでダウンロードした映画をディスプレーに表示したり音楽を聴けたりするほか、万が一事故が起きてもネットワークを通じて家族への連絡などが可能だ。
ゴンマネージャーは「地場メーカーである我々には、中国人が何を求めているかがよくわかる」と、海外勢と比べた優位性を強調する。引き続き、ネットワーク対応の技術開発を進め、商品価値を高める考えだ。
ベンチャーとオープンイノベーション
自動車ユーザーの意識の変化とともに、メーカーの取り組みも変わってきた。ホンダは、現地企業との幅広い分野での協業を通じて未来のクルマ作りにつなげる。中でも注目するのが、独自技術の開発やサービスを手がけるベンチャー企業との連携だ。
本田技術研究所の脇谷勉執行役員は「オープンイノベーションに対するモチベーションが高い上に、イノベーティブなアイデアを出しやすい点には期待している」と、現地ベンチャー企業の潜在力を強調する。
今後は中国で、人工知能(AI)やビッグデータ(大量データ)などさまざまな技術を活用したオープンイノベーションを加速するほか、将来はオープンイノベーションのための研究開発拠点設立も計画する。
ベンチャー企業による自動車産業への参入機運も高まっている。16年3月に設立したカームカーは、自動車向けに先進安全技術などの導入を狙う。
AIを活用して運転者のふるまいを解析した上で、警告などにより事故を未然に防ぐ。ワン・シー最高経営責任者(CEO)は「17年中に1000台の自動車への導入を目指す」と意気込む。
セキュリティーシステムなどを手がけるシダナ・コーポレーションは、スマホを使って自動車ドアのロックや、乗車前のエアコン操作が可能なアプリケーションを開発中だ。
自動車産業では、自動運転や電動化など新技術が台頭しており、業種や企業規模の垣根を越えた大競争時代に突入している。巨大市場の中国で、大手メーカーの研究開発リソースと現地ベンチャー企業特有の独創性が組み合わされれば、グローバル市場をけん引する中国発の技術革新を起こせる可能性も高まる。
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(中国・広州=土井俊)
日刊工業新聞2017年6月9日