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米国市場でスバル一人勝ち。快進撃の裏に緻密な戦略を見た!

スバル車最大サイズの大型SUVは将来への試金石
米国市場でスバル一人勝ち。快進撃の裏に緻密な戦略を見た!

大型SUV「ASCENT(アセント)」のコンセプト車


売れすぎリスクとのにらみ合い



 「これがスバルの販売店?と目を疑うくらい立派な建物だった」。北米営業を担当する早田文昭執行役員は苦笑いする。スバルにとって未開拓地区だった米国南部の有力ディーラーがスバル車のディーラー権を獲得。ここ5年ほどで真新しい販売店がいくつもできた。

 スバル車は米国で16年に9年連続で前年販売を上回った。商品、マーケティング、販売戦略がうまくかみ合いスバルブランドは全米に浸透。従前から販売シェアが高い米北部だけでなく南部でもシェアを伸ばした。「全米ディーラーは約620店舗とここ数年同じだが顔ぶれは変わった」(早田氏)。スバル車はもうかる―。米国ディーラーの共通認識だ。

 「販売台数は未達で全然かまわない。在庫が増えすぎるほうが怖い」。スバル車の米国販売が大きく伸びる中、スバルの吉永泰之社長は在庫動向に神経をとがらせる。

 スバル車はここ数年の急激な販売拡大により、在庫が極端に少ない状況が続いた。販売奨励金は業界平均を大きく下回る。中古車の下取り価格も高く、スバル車の需要を喚起し、高い利益率となる好循環を生んでいる。

 極端な車の玉不足は販売機会の損失につながるため、米国工場では16年春から18年度にかけて能力増強を進めている。ただ車を作りすぎて在庫が増えると次第に奨励金で台数をさばくようになる。スバルが強みとしてきた従来のビジネスモデルが崩れる恐れがある。

 在庫を余分に持っていないか―。スバルオブアメリカは米国ディーラーの現場に目を光らせる。米国市場はガソリン安の影響でセダン系車種からSUV、ライトトラックに人気がシフト。新型「XV」の投入も控え、SUVの販売比率が高いスバルにとって追い風が続く。“売りたい”ディーラーをマネジメントし在庫適正化を維持できるか。売れすぎリスクとのにらみ合いが続く。

 米国における生産体制の強化にも余念が無い。米国の生産子会社、スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ(SIA)の生産能力を18年度までに現状の39万4000台から、43万6000台に引き上げる。トリムラインの増設や塗装ラインの拡張などを実施、生産現場の従業員や管理職ら約500人から600人を新規雇用する計画だ。

 米国はスバル車の世界販売の6割を占める主戦場。好調な米国販売を下支えしているのがSIA。同工場では現在、主に米国やカナダで販売するセダン「レガシィ」、スポーツ多目的車(SUV)「アウトバック」、昨年秋に発売した新型「インプレッサ」の主力3車種を生産している。現在の操業度は100%を超える状態が続いている。

 18年には「アセント」を投入する計画で、SIAで生産する車種は1車種増えて4車種に広がる。
SIAの生産ライン

 SIAの16年9月時点の従業員数は5541人。ペンス米副大統領がかつて知事を務めたインディアナ州の製造業として最大規模の従業員数を抱える。

 SIAには生産ラインが2本あり、このうち1本は16年5月までトヨタ自動車から生産を受託した乗用車「カムリ」用のラインだった。カムリ受託生産終了後の16年5月から現在までに約1500人の新規雇用を創出した。

 地元の大学と協力して人材育成を進めるなど地域との結びつきも強めている。優秀な人材の安定した確保や、従業員のスキルアップがより重要になっているからだ。

 SIAがあるインディアナ州ラファイエット市は人口約18万人の都市で、2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一氏が研究していたパデュー大学がある。

 理系科目に強い大学でSIAの管理部門約750人のうち150人が同校出身者。同じ市内に拠点を持つことからSIAとパデュー大学との関係は深く、工場敷地内には同大学が認定した分校が設置されている。SIAの従業員は働きながら分校で講義を受けることが可能で、同大学、大学院の卒業資格が得られる。若手の獲得や従業員の能力向上につながっている。

 米ペンス副大統領もインディアナ州知事時代にSIAを何度も訪問しており、ロビーには雇用創出に貢献した企業としてSIAが受け取ったペンス氏の署名が入った賞状が飾られている。

 米国でより「深化」したスバル。そう簡単に快進撃は止まらないだろう。
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
アセントは英語で“上昇”や“上り坂”といった意味を持つ。その名の通りスバルは北米市場でさらに飛躍できるのか。アセントは今後を占う重要な車種の一つで、18年以降の販売の行方が注目される。 (日刊工業新聞第一産業部・下氏香菜子)

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