トヨタが去った後、なぜスバルの米工場は勢いを増したのか
絶好調の米国販売を支えるSIAのカイゼン、現地レポート
SUBARU(スバル)車の米国販売が9年連続で前年超えを達成するなど快進撃が続いている。同社米国工場も過去最高の忙しさだ。米国販売に占める現地生産比率が高まる中、主力の群馬製作所(群馬県太田市)とともにスバル車の生産を支える拠点として米国工場の重要度は高まっている。現状を追った。
米イリノイ州シカゴ中心部から車で約2時間。のどかなトウモロコシ畑の真ん中から姿を現すのがスバル車の米国工場、スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ(SIA)だ。
敷地面積は同社主力工場である群馬製作所矢島工場(群馬県太田市)の約6倍にあたる約331万平方メートル。北米で販売するスバル車の工場で、近接するモータープールには出荷待ちのスバル車がずらりと並び、次々と輸送用の貨車へ入っていく。
米国はスバル車の世界販売の6割を占める主戦場だ。2016年の米国販売台数は初めて60万台を突破した。足元では米国新車販売が3カ月連続で前年同月を下回り市場の減速感が鮮明となる中、17年3月のスバル車の新車販売は64カ月連続で前年同月実績を上回った。
「SIAの操業度は100%を超える状態が続いている」。SIAの荻野英司社長は工場の現状をこう説明する。SIAは今後、18年度までにトリムラインの増設や塗装ラインの拡張などを実施し、年産能力を現状の39万4000台から、43万6000台に引き上げる計画だ。
好調な米国販売を下支えするSIA。同工場では現在、主に米国やカナダで販売するセダン「レガシィ」、スポーツ多目的車(SUV)「アウトバック」、昨年秋に発売した新型「インプレッサ」の主力3車種を生産している。SIAには生産ラインが2本あり、このうち1本は16年5月までトヨタ自動車から生産を受託した乗用車「カムリ」用のラインだった。
スバル車の増産に向け、受託生産の契約を終了し、約3週間でカムリの生産ラインをスバル車のラインに改造し能力を倍増した。
SIAでは群馬製作所で採用しているモノづくりの手法がちりばめられている。「ブリッジ生産」もその一つだ。現在、2本のうち1ラインでレガシィとアウトバックを、1ラインでアウトバックとインプレッサを生産。現在米国で売れ筋のアウトバックは2本のラインを使って製造している。
2本ともに複数の車種を作れるブリッジ生産は、需要の変動に合わせて生産車種や数を変えやすい利点がある。群馬製作所での成功事例を自動車の本場である米国のSIAにも横展開した。
SIAにとって新たな挑戦となったのが、昨年に発売した北米向けインプレッサの生産を、群馬製作所とほぼ同じタイミングで立ち上げたことだ。従来は群馬製作所で新型車の生産が安定した後に、SIAでも生産を始めるのが主流だった。
米国が販売の主戦場になる中で、日本と同じ時期に“旬”を逃さずにスバル車を供給し、米国の顧客に届けることが販売戦略の上で重要になってきたからだ。
このため今回の新型インプレッサの生産にあたっては群馬製作所とSIAが緊密に連携し、品質をチェックする基準や検査の仕方をより厳密にそろえるなど徹底し、日本と米国の製品が品質にバラつきなく完成できるように工夫した。
今後も米国販売に占める現地生産比率が拡大するのは確実。荻野社長は「SIAの技術レベルは数年前と比べて向上しているものの、まだ少し差がある。これを埋めていく作業はまだ必要だ」と指摘する。特にここ1年でSIAの従業員は1000人以上増えており、新しい従業員に対する技術レベルの底上げが課題の一つになっている。
スバルは18年に3列シートの北米専用大型スポーツ多目的車(SUV)を投入する計画で、SIAで生産する車種は1車種増えて4車種に広がる。このため、SIAは18年度末までに米国工場(インディアナ州)で生産現場の従業員や管理職ら約500人から600人を新規雇用する。
SIAの16年9月時点の従業員数は5541人。ペンス米副大統領がかつて知事を務めたインディアナ州の製造業として最大規模の従業員数を抱える。カムリ受託生産終了後の16年5月から現在までに約1500人の新規雇用を創出した。
現地生産比率が増える中、群馬製作所と並ぶスバル車生産の両輪の一つとして、SIAの生産技術を高めてより高い品質レベルの車づくりを実現できるか。今後を占う重要な局面にきている。
(米インディアナ=下氏香菜子)
米イリノイ州シカゴ中心部から車で約2時間。のどかなトウモロコシ畑の真ん中から姿を現すのがスバル車の米国工場、スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ(SIA)だ。
敷地面積は同社主力工場である群馬製作所矢島工場(群馬県太田市)の約6倍にあたる約331万平方メートル。北米で販売するスバル車の工場で、近接するモータープールには出荷待ちのスバル車がずらりと並び、次々と輸送用の貨車へ入っていく。
米国はスバル車の世界販売の6割を占める主戦場だ。2016年の米国販売台数は初めて60万台を突破した。足元では米国新車販売が3カ月連続で前年同月を下回り市場の減速感が鮮明となる中、17年3月のスバル車の新車販売は64カ月連続で前年同月実績を上回った。
「SIAの操業度は100%を超える状態が続いている」。SIAの荻野英司社長は工場の現状をこう説明する。SIAは今後、18年度までにトリムラインの増設や塗装ラインの拡張などを実施し、年産能力を現状の39万4000台から、43万6000台に引き上げる計画だ。
好調な米国販売を下支えするSIA。同工場では現在、主に米国やカナダで販売するセダン「レガシィ」、スポーツ多目的車(SUV)「アウトバック」、昨年秋に発売した新型「インプレッサ」の主力3車種を生産している。SIAには生産ラインが2本あり、このうち1本は16年5月までトヨタ自動車から生産を受託した乗用車「カムリ」用のラインだった。
スバル車の増産に向け、受託生産の契約を終了し、約3週間でカムリの生産ラインをスバル車のラインに改造し能力を倍増した。
群馬方式採用、需要変動に素早く対応
SIAでは群馬製作所で採用しているモノづくりの手法がちりばめられている。「ブリッジ生産」もその一つだ。現在、2本のうち1ラインでレガシィとアウトバックを、1ラインでアウトバックとインプレッサを生産。現在米国で売れ筋のアウトバックは2本のラインを使って製造している。
2本ともに複数の車種を作れるブリッジ生産は、需要の変動に合わせて生産車種や数を変えやすい利点がある。群馬製作所での成功事例を自動車の本場である米国のSIAにも横展開した。
SIAにとって新たな挑戦となったのが、昨年に発売した北米向けインプレッサの生産を、群馬製作所とほぼ同じタイミングで立ち上げたことだ。従来は群馬製作所で新型車の生産が安定した後に、SIAでも生産を始めるのが主流だった。
米国が販売の主戦場になる中で、日本と同じ時期に“旬”を逃さずにスバル車を供給し、米国の顧客に届けることが販売戦略の上で重要になってきたからだ。
このため今回の新型インプレッサの生産にあたっては群馬製作所とSIAが緊密に連携し、品質をチェックする基準や検査の仕方をより厳密にそろえるなど徹底し、日本と米国の製品が品質にバラつきなく完成できるように工夫した。
この1年で1000人以上増える
今後も米国販売に占める現地生産比率が拡大するのは確実。荻野社長は「SIAの技術レベルは数年前と比べて向上しているものの、まだ少し差がある。これを埋めていく作業はまだ必要だ」と指摘する。特にここ1年でSIAの従業員は1000人以上増えており、新しい従業員に対する技術レベルの底上げが課題の一つになっている。
スバルは18年に3列シートの北米専用大型スポーツ多目的車(SUV)を投入する計画で、SIAで生産する車種は1車種増えて4車種に広がる。このため、SIAは18年度末までに米国工場(インディアナ州)で生産現場の従業員や管理職ら約500人から600人を新規雇用する。
SIAの16年9月時点の従業員数は5541人。ペンス米副大統領がかつて知事を務めたインディアナ州の製造業として最大規模の従業員数を抱える。カムリ受託生産終了後の16年5月から現在までに約1500人の新規雇用を創出した。
現地生産比率が増える中、群馬製作所と並ぶスバル車生産の両輪の一つとして、SIAの生産技術を高めてより高い品質レベルの車づくりを実現できるか。今後を占う重要な局面にきている。
(米インディアナ=下氏香菜子)