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日本製紙のセルロースナノファイバーに、なぜ問い合わせが殺倒するのか

ゴムや樹脂との複合材料化、自動車部品の軽量化に期待高まる
日本製紙のセルロースナノファイバーに、なぜ問い合わせが殺倒するのか

石巻工場で稼働したCNF量産設備

 日本製紙は今週初め、石巻工場(宮城県石巻市)に生産能力が年500トンのセルロースナノファイバー(CNF)量産設備を完成した。馬城文雄社長は「現時点で世界最大規模のCNF生産設備」と胸を張る。

 従来、国内にあるCNF生産設備は建設中も含め同100トンが最大だった。

 同社は業界に先駆けて2013年秋、岩国工場(山口県岩国市)に東京大学の磯貝明教授らが開発した触媒「TEMPO」を使って木質繊維(パルプ)を化学処理する同30トンのCNF実証生産設備を設置し、技術開発を進めてきた。

 パルプをTEMPOで酸化し、機械的な力を加えるとナノメートルサイズ(ナノは10億分の1)の繊維素まで完全に解繊できる。先行した添加剤用途にとどまらず、次世代のバイオマス素材として産業界の期待を集める。

 石巻工場の量産設備は、本格的な事業展開を見据えたものだ。初年度、CNFの酸化した表面に銀などの金属イオンを大量に担持させて消臭機能を高めた自社商品の尿漏れパッド/ライナー向けとサンプル供給を含め稼働率10―20%で立ち上げ、19年のフル稼働を目指す。500社近くにサンプル提供してきた実績が裏付けだ。

 CNFの用途として最も注目されているのが、軽量・高強度を実現するゴムや樹脂との複合材料化。自動車の部品に適用できれば、軽量化効果は大きい。

 この分野で具体的な用途開発を推し進めるため、6月には富士工場(静岡県富士市)でCNF強化樹脂の実証生産設備を稼働する。生産能力は年十数トン。同社は京都大学を主体とする新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに参画し、CNF強化樹脂の開発に取り組んできた。

 NEDOプロジェクトによる京大のCNF強化樹脂テストプラントは同1トン。これまでサンプル提供要請に応えきれなかったが、日本紙の実証生産設備が稼働すれば一挙に10倍以上の規模になる。「ほとんどすべての完成車・自動車部品メーカーと、建材メーカーなどから問い合わせがある」(河崎雅行CNF研究所長)という。

 さらに9月稼働を目指し、ケミカル事業本部江津事業所(島根県江津市)で食品添加物の製造技術を応用した同30トンの食品・化粧品向けCNF増粘・保湿剤の量産設備も建設中。17年度上期だけで一気に3工場でCNF生産が立ち上がる。「17年は将来への大きな一歩になる」(馬城社長)とCNF事業の開花を待望する。
日刊工業新聞2017年4月28日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 製紙原料のパルプはCNFが強力な水素結合で束になった状態。化学処理で結束構造をほぐしやすくし、機械的な力を加えると、セルロースミクロフィブリルと呼ばれる最小単位の繊維素に解繊できる。直径は髪の毛の1万分の1相当の3ナノ―4ナノメートルしかない。それでいて鉄鋼に比べ5分の1の低比重(1立方センチメートル当たり1・5グラム)で同等の曲げ強度と、5―8倍の引っ張り強度を持つ。  こうした特性が自動車部品などの分野で、新たな補強材として期待を集める。樹脂やゴムとの複合材料化だ。ただ、CNFは親水性で扱いにくい面もあり現実には増粘・消臭といった機能を高める添加剤用途が先行する。  三菱鉛筆は第一工業製薬と共同で、CNFをゲルインクボールペンの増粘剤として実用化した。CNFは水の中に分散させると高い粘性が出るが、揺り動かされると粘度が下がる流動特性(チキソトロピック性)を備える。第一工薬が2013年に開発したCNF増粘剤を、三菱鉛筆が15年春発売の海外仕様製品「ユニボール シグノ 307」に初採用。16年5月から国内販売も始めた。ボールの回転によりCNFを添加したインクの粘性が下がり、速記しても描線が乱れず、ボテ(インク垂れ)が生じにくい。これまでに国内外で2000万本以上を販売した。  日本製紙は化学処理で酸化したCNFの表面に、金属イオンや金属のナノ粒子を高密度に付着させられる特徴に着目。抗菌・消臭効果のある銀などの金属イオンを大量に担持させてシート状に加工することに成功した。この機能性シートを採用した大人用紙おむつ「肌ケア アクティ」を15年10月に発売した。従来品に比べ3倍以上の消臭力があるという。  16年10月には同シートを主力商品の尿漏れパッド/ライナー「ポイズ」に全面採用。今後、尿漏れ・吸水ケア製品全般に適用範囲を広げる方針だ。また、各種金属により抗菌・消臭だけでなく、CNFの大きな比表面積を生かして多様な触媒機能を高効率で発揮させる産業用途も狙う。  王子ホールディングス(HD)は4月中にも、日用雑貨品メーカー向けにCNF増粘剤を初納入する。商品名「アウロ・ヴィスコ」として化粧品などに用途を拡大していく。食品添加物として多くの加工食品や化粧品などに使われる増粘多糖類のキサンタンガムに比べて10倍以上の粘度があり、少ない添加量で効果が得られる。王子は新たなナノ素材であるCNFの安全性を1年余り、独自に徹底検証して確認。事業展開を本格化する。 (日刊工業新聞第ニ産業部・青柳一弘)

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