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金融・英脱出「問題はパリかフランクフルトかでなく欧州全体の機能低下だ」

夏までに続々、ゴールドマンサックスは1000人移る!?
 「夏までに続々と『英国脱出』を表明する金融機関が出てくるのでは」と邦銀関係者は語る。英国が欧州連合(EU)を離脱すると、金融機関が一つの加盟国で許可を取ればEU域内で自由に営業できる「単一パスポート制度」を維持できなくなる影響は大きい。

 EU域内でサービスを提供する体制を確保するには新拠点の設立が必要だ。しかし、申請から認可までは1年半程度の時間が掛かる。2019年3月の離脱を見据えれば、今年の春から夏までが意思決定の期限になる。

 メガバンクでは三井住友銀行が英国で単一パスポートを取得している。今後は、英国以外に現地法人を新設する方針だ。大和証券グループ本社は独フランクフルトやアイルランド・ダブリンを新拠点候補として検討する。

 ロンドンを欧州の拠点とする東京海上ホールディングス(HD)やSOMPOHDも体制見直しを急ぐ。北沢利文東京海上日動火災保険社長は「営業体制の変更について情報収集や検討を進めている」と語る。

 海外の大手金融機関は交渉を待たずして、ロンドンからの人員の再配置に着手する。米ゴールドマン・サックスはフランクフルトをEUの中核拠点とすることを検討中。実現すれば最大1000人が移る。

 英HSBCHDはロンドン投資銀行の収入の約2割に相当するトレーディング業務を仏パリに移す可能性がある。米JPモルガンも英国の1万6000人の従業員のうち、4000人の欧州大陸への移動を示唆した。英ロイズ保険組合はベルギー・ブリュッセルに子会社を設立し、19年初の事業開始を目指す。

 ロンドンの地盤沈下は免れない見方がある一方、ロンドンに集中してきた欧州の金融機能を他の都市が代替することも困難だ。欧州全域に機能分散が進む可能性が高い。

 三菱UFJフィナンシャル・グループはロンドン拠点の見直しには着手していないが、オランダの現地法人の機能を強化して英国のEU離脱の影響を抑える。小山田隆三菱東京UFJ銀行頭取は「(ロンドンには代えがたい)インフラが整っている」と語る。
(文=栗下直也)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 とはいえ、金融機関は機能を分散させれば欧州全域での経営効率は悪化する。すでに機能が集中する米国やシンガポールの存在感が相対的に増す。邦銀関係者は「問題はロンドンかパリかフランクフルトかでなく、欧州全体の機能低下だ」と指摘する。英国のEU離脱は欧州内の事業再編にとどまらず、欧州事業の社内での位置付けを再考する呼び水になるかもしれない。

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