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英国のEU離脱で最も困る日本企業は。日立?日産?それとも

EUから優秀な人材を採用しにくく。ゴーン社長は投資を控える可能性を示唆
 英国の欧州連合(EU)離脱が現実味を増してきた。離脱の是非を問う23日の国民投票実施を前に、各種世論調査では、残留派と離脱派が拮抗(きっこう)している。残留支持の女性議員が銃撃された事件がどう影響するかも読みにくい。離脱となれば、欧州ビジネスを手がける日本企業も戦略の再考が必要だ。

 英国のEU離脱は投資への影響も避けられない。最も懸念を表明しているのが日立製作所だ。

「離脱は絶対反対」(日立社長)


 「離脱は絶対反対」―。日立の東原敏昭社長は5月の記者会見で、こう強調した。同社は英国を鉄道事業の重要拠点の一つと位置付ける。15年9月にはダーラム州に約150億円を投じて車両工場を立ち上げた。日立が海外に鉄道工場を開設するのは初めてだ。

(昨年9月にロンドンで取締役を開いた日立)

 現地の製造・保守要員を18年までに約1400人増やし、1700人体制に拡充する計画も打ち出した。英国経済の安定性などに加え「英国がEUの一員であり、そこから欧州にビジネスを広げられるという狙いから拠点を構えた」(東原社長)。離脱が決まると、「欧州全体に影響が広がる可能性がある」(同)と警鐘を鳴らす。

 自動車業界も過去に積極的に英国に投資してきた。日産はサンダーランド工場に2200万ポンド(約33億円)を投じてスポーツ多目的車(SUV)「キャシュカイ」を10月から増産する。ホンダもスウィンドン工場に2億ポンド(約300億円)を投じ、中型車「シビック」の5ドア仕様の輸出拠点とする計画だ。

 カルロス・ゴーン日産社長は「英国がEUに残ることが雇用、貿易やコストの観点からふさわしい。未知より安定の方が事業としては有利な環境だ」との声明を発表。離脱した場合は投資を控える可能性を示唆した。

(日産のサンダーランド工場)

投資はオランダの2倍以上


 電機や自動車に限らず、日本企業は英国へ多く投資している。10年以降、日本から欧州への投資のうち、英国は常に1位だった。15年は152億ドル(約1兆6000億円)と、2位のオランダ(83億ドル)の約2倍を投資。世界全体でも15年は米国に次ぐ2番目に高い水準だった。

 仮に離脱した場合、EUからの人の移動が制限される可能性があり、「英国に拠点のある日本企業はEUから優秀な人材を採用しにくくなる」(山口大介日本貿易振興機構欧州ロシアCIS課長)。さらに低賃金で働く移民の流入抑制により「人件費が上昇する」(山口課長)という恐れもある。

 金融機関ではEU域内ならどこでも営業できる「パスポート制度」から英国が外れることへの懸念がある。これまでは英国で認可を受けた邦銀は他のEU諸国でも活動できたが、離脱に伴い、他の国では再度、認可が必要になる可能性がある。人の移動やパスポート制度の扱いも、今後2年間の交渉で決まることになる。


HSBCは行員を1000人パリへ。邦銀は?


 欧州企業の中には英銀行大手のHSBCが「離脱した場合は1000人の行員をパリに異動させるだろう」(ブルームバーグ)との報道があるように、離脱後を見据えた具体的な戦略を語る企業もあるが、日本企業はまだこれから考える企業がほとんどだ。

 「(離脱となった場合)動向を見ながら、今までの戦略を変える必要があるのか、ないのか考えたい」(西山光秋日立代表執行役執行役専務)や「最長2年の移行期間があるので、状況をよく注視しながら、将来の業務運営体制などについて検討したい」(国部毅全国銀行協会会長=三井住友銀行頭取)との声が聞かれる。できれば“悪夢”で終わってほしいというのが日本企業の本音だろう。
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日刊工業新聞2016年6月21日の記事から抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
関税を巡り、影響を受けそうなのが英国に工場を持つ自動車業界。貿易協定がないと、乗用車で約10%、部品も含めた乗用車関連産業で6%前後の関税がかかる。2015年に日産は48万台、トヨタは19万台、ホンダは12万台を英国で生産しており、ホンダの場合でEU向けの輸出比率は6割に達する。EU域内の生産を拡大するか、あるいは韓国など貿易協定を結ぶ国からEU向け輸出を増やすか、離脱が決まった場合は戦略の練り直しが必要となる。

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