英国のEU離脱はリーマン・ショックと同等のインパクト
文=大井幸子(国際金融アナリスト兼SAIL社長)不透明な状況が長期化
英国の欧州連合(EU)離脱問題が今後、世界経済や金融市場にどのような影響を与えるのか。相場は6月27日の週で買い戻され、世界株式同時安を食い止めたように見える。しかし、リーマン・ショックのように世界中にバラまかれた「仕組債」やCDSが売り浴びせられ、相場のパニックが連鎖し、破たんの波が次々と他の投資銀行や金融機関にも及ぶのだろうか。
実際、英国の国内総生産(GDP)が世界に占める割合は4%にすぎない。その意味で影響は限定的と多くのエコノミストは予想している。しかし、国民が直接投票で離脱を決めたことで、英国国内政治は混迷し、保守党・労働党党内の分裂、指導者不在による新体制への移行の遅れが、実体経済や金融市場に与える影響は大きいと思われる。
特に、次期首相候補と言われた離脱派リーダーのボリス・ジョンソン氏が出馬しないと宣言したことで、混迷が深まっている。英国がEU離脱交渉を年内は行わないという見通しから、不透明な状況が長期化する可能性が憂慮される。
英国離脱は「少数民族の分断」というパンドラの箱を開けてしまったのだろうか。箱の中から魑魅魍魎とした恐怖心をあおられたナショナリズムやセクショナリズムが飛び出し、収拾のつかない混乱が拡大するのではないか。
2010年12月から始まった「アラブの春」においては、独裁政権下で禁じられていた「民主化」の波が中東を覆い、既存政権が打倒され、その結果、ISなど新たな暴力装置がテロを拡大させ、地政学リスクを高めてしまった。
EUは戦後50年以上もかけて統合への道を歩んで来ただけに、同様の政治リスクをなんとしても避けなければならない。欧州の地政学リスクの観点から見れば、リーマン・ショックと同等のインパクトがあると筆者は考える。
離脱前と離脱後を比べると、激しい変動があったにもかかわらず、欧州株は6月中7%上昇し、米国株も2%上昇した。第2四半期の運用実績には響かないよう6月末に向けて買い戻しが行われたとも読める。それでも年初から6月末日までの実績を見ると、欧州株全体でマイナス8―マイナス10%と下げている。
英国は国民投票後、総じてリスクオフのトレードから米ドル高、円高、金利低下、原油安となった。ポンドは年初来10%下げた。ただしドルに対して円高で日経平均株価は年初来17%近く大きく下げている。
リスクオフは日本の相場にとっては利益をもたらさないようだ。今後も英国から投資の引き上げが起これば、英国にとっての緊急の課題はロンドンがEUの金融の中心でいられるかどうかであろう。
地政学リスクは避けられるか
実際、英国の国内総生産(GDP)が世界に占める割合は4%にすぎない。その意味で影響は限定的と多くのエコノミストは予想している。しかし、国民が直接投票で離脱を決めたことで、英国国内政治は混迷し、保守党・労働党党内の分裂、指導者不在による新体制への移行の遅れが、実体経済や金融市場に与える影響は大きいと思われる。
特に、次期首相候補と言われた離脱派リーダーのボリス・ジョンソン氏が出馬しないと宣言したことで、混迷が深まっている。英国がEU離脱交渉を年内は行わないという見通しから、不透明な状況が長期化する可能性が憂慮される。
英国離脱は「少数民族の分断」というパンドラの箱を開けてしまったのだろうか。箱の中から魑魅魍魎とした恐怖心をあおられたナショナリズムやセクショナリズムが飛び出し、収拾のつかない混乱が拡大するのではないか。
2010年12月から始まった「アラブの春」においては、独裁政権下で禁じられていた「民主化」の波が中東を覆い、既存政権が打倒され、その結果、ISなど新たな暴力装置がテロを拡大させ、地政学リスクを高めてしまった。
EUは戦後50年以上もかけて統合への道を歩んで来ただけに、同様の政治リスクをなんとしても避けなければならない。欧州の地政学リスクの観点から見れば、リーマン・ショックと同等のインパクトがあると筆者は考える。
リスクオフは日本相場に利益をもたらさない
離脱前と離脱後を比べると、激しい変動があったにもかかわらず、欧州株は6月中7%上昇し、米国株も2%上昇した。第2四半期の運用実績には響かないよう6月末に向けて買い戻しが行われたとも読める。それでも年初から6月末日までの実績を見ると、欧州株全体でマイナス8―マイナス10%と下げている。
英国は国民投票後、総じてリスクオフのトレードから米ドル高、円高、金利低下、原油安となった。ポンドは年初来10%下げた。ただしドルに対して円高で日経平均株価は年初来17%近く大きく下げている。
リスクオフは日本の相場にとっては利益をもたらさないようだ。今後も英国から投資の引き上げが起これば、英国にとっての緊急の課題はロンドンがEUの金融の中心でいられるかどうかであろう。
日刊工業新聞2016年7月8日