英「離脱後」の距離感探る日本企業。FTA次第で方針転換も

英企業はすでに7割が国外移転検討。「クリフエッジ」を警戒し早めに備えを

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3月28日、英首相官邸でEUからの離脱通告のための書簡に署名したメイ首相
 英国のメイ首相は欧州連合(EU)に離脱を通知する書簡に署名、正式に離脱交渉を始める。日本企業はまだ英国から欧州大陸に移転を表明する企業はないが、EUへの市場アクセスを犠牲にする「強硬離脱」を選択した今、大陸への“脱出”は現実味を帯びてきた。企業や研究機関は欧州戦略を見直す必要に迫られている。

 「日本企業がどういう行動に出るのかまだ見えない」。あるドイツ地方政府の企業誘致担当者は打ち明ける。例えばソフトバンク。英国のEU離脱を見据えドイツ国内に新規投資を検討中ともいわれる。

 一方で、同社は英国民投票後の2016年7月、約3兆3000億円を投じて英半導体設計大手ARMの買収を決めた。欧州大陸側の企業誘致担当者は、方針が定まらない企業の出方をうかがっている段階だ。

 「英国は単一市場から単一の国に変わる。それに企業がどう対応するかだ」。清水章日立製作所執行役常務は3月中旬、都内で開かれた世界情勢のシンポジウムでこう語った。

 英国はEUの国内総生産(GDP)の17・6%を占め、ドイツ(20・7%)に次ぐ第2位の規模。人口では12・8%を占めドイツ(16・0%)、フランス(13・1%)に次ぐ第3位。英国から大陸に完全に移管して、見逃すには惜しい市場ではある。
日産のサンダーランド工場

 英国との距離をどのあたりにとるか―。決めるまでの時間はそれほどない。離脱手続きを定めたリスボン条約50条によると交渉期間は2年だが、議会批准などの後工程も考慮すると、EU側は交渉期間を1年半とみている。交渉が2年以上にもつれる可能性もゼロではないが、最短の場合で18年秋頃までには決着する。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)ロンドン事務所の坂口利彦所長は1年半後に状況が一変する「クリフエッジ(断崖)」を警戒し「日系企業は早めに備えを」と呼びかける。「英国企業はすでに7割の企業がEU離脱に備え、英国外への移転検討や外国人従業員との対話など何らかの対策を講じている」(坂口所長)と警鐘を鳴らす。

 英国の貿易統計を見ると、輸出先の1位は米国(14・8%)で2位はドイツ(9・9%)。米国への主な輸出品目は、自動車や原動機、医薬品だ。

 保護主義をうたう米トランプ政権は目下、海外から米国内への生産移管を企業に求めている。日系企業は英国のEU離脱のみならず、米政権の動向も踏まえ、欧州戦略、グローバル戦略を考える時期にある。
(文=大城麻木乃)

日刊工業新聞2017年3月30日

COMMENT

池田勝敏
編集局経済部
編集委員

 英国が通告した欧州連合(EU)単一市場からの離脱に、ドイツをはじめ、EU諸国は厳しい姿勢で臨む。此本臣吾野村総合研究所社長は「英国が経済的なダメージを受けるのは不可避。影響は2018年、19年に出てくる」とみる。  米ゼネラル・モーターズ(GM)は英ボクスホールを含む欧州事業を、仏PSAに売却する。低迷する欧州事業の切り離しが狙いだが、背景にはブレグジットの影響も少なからずあるとみられる。一方、日系自動車メーカーは、投資継続の方針を打ち出す。トヨタ自動車はバーナストン工場に340億円以上の新規投資を行う。新設計手法「TNGA」を導入した新型車の生産に合わせて設備を刷新する計画だ。  英国最大の自動車メーカーである日産自動車もサンダーランド工場で主力スポーツ多目的車(SUV)の次期モデルを生産する。カルロス・ゴーン社長は30日「今は通商ルールがどうなるか見極めている。ルールが決まったらそれに対応する。ルールの変化には慣れている」と話した。ホンダもスウィンドン工場を小型車「シビック」のハッチバック型などの供給拠点としており「その位置付けを変えるつもりはない」(八郷隆弘社長)としている。  英国の都市間高速鉄道計画(IEP)の高速車両を受注している日立製作所も、中長期でみると英国工場を輸出拠点としてどう活用するかが重要課題。英国とEUとの新たな自由貿易協定(FTA)に関する交渉次第では欧州戦略の見直しに動かざるを得ないかもしれず、その行方を見守る。  英国の国民投票後にポンド安になるやいなや、英ARMを買収したソフトバンクグループ。買収時に孫正義社長は「今後5年で英国内の雇用を倍増する」と発言し、まだその姿勢は崩していない。ARMは製造拠点は持たず、半導体を設計し、ライセンス(使用許諾権)をメーカーに提供するロイヤルティー事業を展開している。EU諸国と英国間のモノの流通に制限がかかっても影響は小さいとの読みが見える。

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