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ドイツ銀行だけじゃない!英国、イタリア・・欧州で高まる金融リスク

2007年のサブプライムショックとの共通点
 10月に入り、国際金融市場にはいくつもの不安材料が並ぶ。世界中のあちらこちらに埋められた地雷がいつどこから、どのようなきっかけで爆破され、次々と誘爆が起こり、金融市場全体が危機に見舞われるのか、グローバルな投資家はヒヤヒヤしている。

 一連のリスクの大きな要因としては、11月の米大統領選挙、12月の米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ、そして、地政学的にはシリア情勢や北朝鮮をめぐる米露の対立がある。このところのアレッポ奪回に猛攻撃をかけるシリアのアサド大統領に対し、米露の和平交渉は完全に決裂している。

 欧州の金融市場では特にリスクの高まりが感じ取られる。まず、ドイツ銀行は住宅ローン担保証券の不正販売で米国法務省から和解金140億ドルを支払うよう求められ、同行の株価はこの2週間で急落し、債券価格も下落した。さらに同行のシニア債のデフォルト懸念が高まり、保証料が急上昇している。

 実際にデフォルトに陥る可能性が高いわけではないが、同行の抱える大量のデリバティブに関して潜在的な損失額に懸念が高まり、この不安がさらに同行の株価を押し下げるという負の連鎖が起こっている。カタール政府系ファンドが同行への投資で10億ユーロ相当の損失を出したと報じられている。

 多くの投資ファンドでこのような急激な損失が起こると、それ以上の損失を防ごうと流動性の高いリスク資産を売る行動に出る。こうしたリスク回避行動は、2007年のサブプライムショックでも見られた。

 07年6月に当時のベア・スターンズ証券が抱えるサブプライム仕組み証券に信用リスクが高まり、同様の仕組み証券を抱える多くの投資家が急激な損失を避けるために流動性の高い株式や優良資産を一斉に売り、相場が崩れ始めた。こうした投資家の一斉の売り浴びせが翌年のリーマン・ショックの導火線となっていった。

 今回の欧州金融市場では英国発リスクも要注意である。メイ首相は17年3月までに欧州連合(EU)離脱交渉を始めるとし、英国ポンドは下落し、対ドルで31年来の安値となった。EU離脱に際し、英国内の銀行はEU加盟国へのアクセス権を失う可能性があることに国内の金融セクターは懸念を示している。

 もう一点、イタリア国債市場に関しても懸念がある。イタリア財務省は5日に50億ユーロの50年債を発行した。イタリア国内の金融セクターの健全性に不安が残る中、高利回りを求める投資家の買いが入り、需要は底堅いと報じられた。しかし筆者は、ソブリン債をはじめとする信用市場が既にバブルのピークに近づいていることを示す事由と受け止めている。
(文=大井幸子・国際金融アナリスト兼SAIL社長)
日刊工業新聞2016年10月7日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
低成長が政治を揺さぶり、それが成長を妨げる悪循環。先日中国で開催されたG20財務相会議では、政策当局者に警戒感が広がっている。「金融政策は多くの国で孤立し有効でなかった」ーIMFのラガルドさんはこう発言したが、いよいよ金融緩和頼みの政策は追い詰められた。

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