NEC・パナソニック…閉幕「COP29」、日本企業が発信した気候変動対策の最新技術
アゼルバイジャンの首都バクーで開かれていた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、主に先進国が途上国の温暖化対策を支援する「気候資金」を2035年までに少なくとも年3000億ドル(46兆円)に増やすことで合意した。現在の目標額の3倍への増額だ。またCOP会場では、日本企業が気候変動対策の最新技術を世界に向けて発信した。(編集委員・松木喬)
途上国の支援拡大
COP29は22日までの会期を大幅に延期し、24日に幕を閉じた。35年までに官民合計の途上国への支援額を少なくとも年1兆3000億ドルにする目標も採択した。国同士が温室効果ガス(GHG)排出削減実績を取引するルールも合意した。
自然災害が多発しており、インフラが不十分な途上国ほど大きな被害を受けている。歴史的にGHGを大量排出してきた先進国が大きな責任を果たすべきだとして、途上国への支援が行われてきた。
COP29は終始、資金の増額を求める途上国と慎重な先進国の溝が埋まらなかった。議長が22日、35年までに年2500億ドルの目標額を示したが、途上国は30年までの年1兆ドルを求めて反発し、会期は延長に突入。「少なくとも」と付けることで妥協し、年3000億ドルで決着した。
NEC デジタル技術で「適応」促進
COP会場には日本政府がジャパン・パビリオンを設置し、企業などが最新技術を展示した。また連日、関係省庁がセミナーを開き、日本企業の取り組みを発信した。
NECは三井住友海上火災保険と設立した「適応ファイナンスコンソーシアム」のブースをパビリオンに出展し、セミナーにも登壇した。また、気候変動枠組み条約事務局のイベントで西原基夫最高技術責任者(CTO)が「適応」と資金について講演した。
適応とは気候変動が引き起こす悪影響への備えを指し、自然災害の被害を軽減する防災も含まれる。再生可能エネルギーのような温暖化対策は「緩和」と呼ばれ、投資が拡大している。一方、適応への投資は圧倒的に少ない。環境省のセミナーでNECGX事業開発統括部の佐藤美紀シニアディレクターは「資金の流れを改善しないといけない」と訴えた。
適応が遅れると経済損失が大きくなるにもかかわらず、その損失に目が向けられていないことが投資が少ない理由だ。実際は工場が被災すると復旧費用がかかり、操業停止中は利益が減る。再建後は保険料が上昇して企業の負担が増す。また、保険会社は保険料の支払いが膨らむと経営が圧迫され、銀行も被災企業からの返済が滞ると痛手だ。
NECは適応の対策をした場合としない場合の被害想定額を算出する技術を確立した。被害額が減ると分かると、企業は投資を判断しやすくなる。金融機関も適応策に融資ができ、保険会社は保険サービスの条件を最適にできる。さらに、適応分野への投資が増えれば防災技術を持った企業にも商機となる。
世界各地で洪水や猛暑による被害が増大しており、適応の緊急性が高まっている。西原CTOは「デジタル技術が緩和との資金のギャップを解消し、適応に貢献できると考えている」と強調した。
パナソニックHD 工場運営再生エネ100%
パナソニックホールディングス(HD)は、再生エネ100%で工場を運営するシステムの模型を展示した。太陽光発電、蓄電池、純水素燃料電池が連携して電気や熱を供給するシステムで、国内工場に続き英国でも実証予定だ。
パナソニックオペレーショナルエクセレンス環境経営推進部の福島由紀ユニットリーダーによると、ブースには中央アジアの人が多く訪れた印象だ。「エネルギーをうまく使っており、先進的」と興味を持ってもらえた。また、コストについての質問が多く、ビジネスで活用できる技術を探している人が多かったようだ。
経済産業省主催のセミナーに、同社の上原宏敏執行役員が登壇した。金融機関や国際組織とともに、製品・サービスの導入によるGHG排出抑制の効果を評価する「削減貢献量」について話し合った。
アスエネ GHG排出算定で貢献
アスエネ(東京都港区)の渡瀬丈弘最高製品責任者(CPO)は、環境省が主催したアジアにおける気候開示を話し合うセミナーに登壇した。同社は、GHG排出量算定の支援サービスを提供するスタートアップ。渡瀬氏は連携組織「グリーン×デジタルコンソーシアム」の一員として参加した。
一緒に登壇したフィリピン証券委員会の担当者がシステムに興味を持ち、「どうやればフィリピンに排出量算定を広げることができるのか」と聞かれたという。デジタルを活用した算定は日本が先行しており、「モデルケースとしてアジアに貢献できる」(渡瀬氏)と感じた。
他の国のパビリオンも視察し「各国で事情が異なる。それぞれの課題を解決するアプローチができればビジネスチャンスになる」とも実感した。
COP29で途上国を支援する資金の増額が決まった。資金が増えたことで途上国で巨額投資が発生し、市場が拡大する。日本企業はCOP会場での発信をビジネス獲得につなげる戦略が問われる。
LIXIL アルミ再生材活用
LIXILは建築物の脱炭素化をテーマとした環境省と国土交通省の主催セミナーに参加した。コミュニケーションズ部門のジョン・ショートリーダーがアルミニウム再生材を100%使用した製品を紹介した。アルミは新地金の精錬に大量の電気を必要とし、二酸化炭素(CO2)の排出が多い。廃アルミを材料とした再生材は精錬工程がなく、排出量を97%削減できる。
建築物にはアルミ製品が多く使われており、建設に関連して発生するCO2削減に大きく貢献できる。「今は日本中心だが、世界中に広げるためパートナーと出会うきっかけにしたい」(ショートリーダー)と思いを語る。
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