運航整備計画1カ月分を10分で作成、JALエンジが生かす「量子技術」の威力
JALエンジニアリング(東京都大田区)はSMARTプロジェクトの成功を受け、2021―25年度の中期経営計画で、全社的なデジタル変革(DX)にかじを切った。整備士が「整備」に集中するという狙いは同じだが、「日本社会の人口減少をより強く意識した」と、ITデジタル推進部の豊永純也統括マネジャーは話す。
これまでITに詳しい人が本来業務の片手間に取り組んでいた状況も見直し、専門組織を強化し、ITデジタル推進部とした。
その中で目玉となるのが、エー・スター・クォンタム(同港区)との量子コンピューティング技術を使って運航整備計画を最適化する取り組みだ。量子コンピューティング技術とは、量子力学の原理を使って従来のコンピューターでは膨大な時間がかかる複雑な問題を高速に解くことが期待される技術だ。
航空機の整備は、部品ごとに規定の飛行時間の期限内にやるべき整備作業が決まっており、その数は機種別に約500項目に上る。各航空機の運航計画や場所やツールの確保を踏まえ、全項目を期限内に整備できるように整備計画を立てる。現在は職人技を持つベテランが行っている。
「1カ月分の整備計画を立てるのに従来のコンピューターは3―4年かかるが、量子コンピューティング技術を使うことで10分で可能になる」(ITデジタル推進部の塩見郷介氏)という。すでにウェブアプリケーションの開発は一段落しており、関連システムを改修して25年度から運用を始める予定だ。
同社はこの技術を使い、整備期限のギリギリまで航空機を飛ばすことを狙う。例えば、100回の飛行で整備期限を迎える項目に対し、従来は90回飛行後に整備していたが、量子技術で計画の精度を上げて99回まで行い、整備の回数を減らす。「繁忙感の解消に役立つ」と、羽田航空機整備センター企画・計画グループの中谷浩彰グループ長は期待する。コスト低減にも効いてくるだろう。
同社はデータ活用によるDX推進のほか、部品の稼働データを使った故障予測にもDXと同様に力を注いでいるが、「まだ整備士の目にはかなわない」(中谷グループ長)という。引き続き業務効率化による整備士の時間の確保に力を注ぐ。
また「専門部署が取り組むだけでなく、各部署がDXを推進できる仕組みをつくりたい」(豊永統括マネージャー)。全社でDXの取り組みを加速させ、航空機の品質向上につなげる。