航空整備の仕事が変わり始めた、ANAが導入した「情報統合基盤」の効果
ARで部品情報共有
全日本空輸(ANA)では、全社的なデータ活用に向けて2020年度に導入した情報統合基盤(データレイク)で整備の仕事も変わり始めた。これまで整備に関わるデータは、整備記録の登録システムや部品登録システムなどさまざまなシステムに散らばって保存されていた。データレイクはこれを集めて可視化し、分析・利用しやすくした。
まず効果を発揮したのは、定例リポート作成などの効率化だ。これまでのやり方でできなかった仕事ではないが、業務負荷が減ることでより専門的な業務に時間を割ける。
業務判断へのデータ活用も始まっている。機体に取り付ける装備品の信頼性分析をする際、装備品の取り付け場所や改修時期の違いなどを切り口に、詳細に分析できるようになった。「取り付け場所の違いが不具合に与える影響をデータで確認できた」と、整備センターe.TPSイノベーション推進室の佐藤賢亮氏は手応えを語る。
飛行中の航空機が地上との間でやりとりする膨大なACARS(航空機空地データ通信システム)リポートもデータレイクで分析。リアルタイムで送らなければならないデータとそうでないデータを分類し、即時に送るデータ以外は空港で送信することで、通信費の大幅な削減を実現した。
現場での情報のやりとりも変わってきた。5月からエンジン整備と機体整備の間でビデオ通話アプリケーション「ケアARアシスト」を本格導入した。他の通話アプリと違い、操作者の顔ではなく、タブレット端末の背面のカメラで部品などを撮影して見せながら会話できる。拡張現実(AR)技術で、注目してほしい場所に目印などをつけることもできる。
シンプルな機能ながら、「素早く意思疎通できる」(ANAエンジンテクニクス整備部業務管理課の目澤謙一郎マネージャー)。
エンジン整備は、整備士の中でもより専門的な知識や特殊な技能が求められる分野だ。このため機体整備を行う中で何かあれば、エンジン担当の整備士は電話でアドバイスしたり、海外や地方の空港に出張したりする。そこで情報共有や意思疎通を効率的に行うため、まずエンジン整備からビデオ通話アプリの利用を開始した。
また、エンジン整備以外でも、「羽田空港は特殊なスキルを持つ人が多いが、地方では人材が限られる」(目澤マネージャー)といった地域差がある。通話アプリを使った情報共有は、こうした差の縮小にも役立ちそうだ。データ・情報の扱いを進化させ、整備品質の向上につなげる。