パナソニック・ダイキン…空調メーカー、ヒートポンプ拡販へ急ぐ〝仕込み〟
空調メーカーが欧州のヒートポンプ暖房市場で営業活動を強化している。パナソニックは自動車に空調機器を積んで地域をまわる「移動展示会」を実施し、ダイキン工業はガス・電力会社を新たな販売網として開拓する。ガス価格の下落などを受けた需要減少で足元では苦戦が続くも、中長期的には回復するという見方は変わらない。将来の拡販を目指し“仕込み”を急ぐ。(大阪・森下晃行)
「お客さんに商品を知ってもらうため各地にキャラバン隊を巡回させていた」。パナソニック空質空調社の小松原宏副社長はチェコでの取り組みを語る。
同社はヒートポンプ工場を同国に構える。生産能力拡大に投資し、2025年夏には増床分の稼働も始まる予定だ。ただ、足元では市場に在庫が積み上がっており、今夏は工場の稼働を抑制した。人員増強も見直した。
一方で、手の空いた工場の従業員らが自動車で暖房を運び、消費者や施工業者に見せてまわる販促活動を試みる。「評判は大変良かった。ガスが通っていない地域は電気を使う必要がある。回復に備えて今は歯を食いしばっている」(小松原副社長)という。
ダイキンも販促に動く。既存の空調販売店に加えて電力・ガス会社やインターネット経由での販売網を開拓中だ。施工業者には水配管作業の簡易施工キットを提案し、導入しやすさをアピールする。
竹中直文社長は「この1年半、非常に厳しかったからこそ回復に備えて営業への投資を抑えてこなかった」と明かす。「下期はやってきた成果を果実化するタイミングだ」。
欧州ではガスボイラーなどで沸かした水を屋内に循環させる暖房が一般的。大気中の熱を利用し温水を作るヒートポンプ暖房は二酸化炭素(CO2)排出量が少ない。脱炭素に加えて、ボイラー燃料をロシア産天然ガスに依存するリスクを避ける動きもあり、欧州ヒートポンプ市場は数年前から拡大していた。
ところが23年ごろからガス価格が下落。導入に活用できる各国の補助金政策も見直された。冷え込みは今も続いており、三菱電機は「(ヒートポンプへの)投資の優先順位が下がっている」(増田邦昭最高財務責任者〈CFO〉)とする。
他方、脱炭素の推進で「いずれ需要が戻る」(パナソニック空質空調社の小松原副社長)という見方は変わらない。例えばドイツでは近い将来、新築への化石燃料ボイラー設置が禁止される方針だ。
ヒートポンプ市場は世界的にも広がる。富士経済(東京都中央区)によると、給湯機器を含むヒートポンプ空調の世界市場は、40年に40兆8604億円に達する見通し。欧州は環境規制の先進地域だけに、需要回復を見据えた営業活動が重要になる。
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