スズキ・ダイハツが挑む…未利用エネルギー活用、成功のカギ
自動車業界はカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現を目指して、さまざまな未利用エネルギーの活用に取り組んでいる。スズキ、ダイハツ工業の小型車2社は牛ふんを発酵させて生成するバイオメタンガスに挑む。スズキはインドで圧縮天然ガス(CNG)車の代替燃料に、ダイハツは滋賀県で工場の熱源に利用する実用化に歩を進める。ともに地域で資源循環を構築できるかが成功のカギを握りそうだ。(小林広幸)
メタンは二酸化炭素(CO2)に比べて20倍以上の温室効果があるとされ、燃焼させるだけでも温暖化対策に効く。牛ふんを原料にメタンを取り出した発酵後の残さは肥料として使え、近隣で牧畜・工業・農耕を組み合わせた資源循環の構築が可能だ。
スズキはインド・グジャラート州内5カ所で、圧縮バイオメタンガス(CBG)の製造プラント建設計画を進め、2025年から順次稼働させる。政府系の全国酪農開発機構とともに、牛ふんを調達する地域の乳業組合の協力を得て事業を推進する。10月には新たに2組合とも協力で合意し、プラントも追加で計画。本格参入を前に、事業規模を拡大させている。
管理されている牛だけで約3億頭という同国。10頭のふんで車1台が1日に走る約60キロメートル相当の燃料を賄えることから次世代の主力燃料として期待は大きい。政策的にCNG車の普及が進んでおり、既にCBGを供給する事業者も存在。ただメタン濃度にバラつきがあるようで車への影響が懸念される。
スズキは「手の内のプラントで実際の歩留まりを確認していく」(コーポレート戦略部の大石浩二部長)として自ら事業化を決めた。既存の供給事業者はCNG同等の価格で販売しているといい、スズキも肥料の販売によるコスト回収も考慮した競争力ある値付けを想定。化学肥料が普及する現地の農耕に対する有機肥料の啓発や利用促進にも着目する。
ダイハツは滋賀県竜王町で、特産の近江牛のふんなどからバイオガスを作るプロジェクトに取り組む。ユニット部品を作る滋賀第1工場のアルミニウム溶解炉で熱源に使う都市ガスの代替を目指す。数年後に構想する日量38トンの量産プラントが稼働すれば、同炉で発生するCO2を15%削減できる見通し。工場全体では数%のインパクトだが、35年のグループ工場CN目標に向け「再生エネ化が困難なプロセスを手の内にする」(BRバイオ推進室の上西真里室長)重要なテーマだ。
牛ふんをメタン発酵させる技術は以前からあるが、主に乳牛。肉牛のふんは水分率が低く、同技術の転用は困難だ。工場から余熱を供給してシンプルな構成で実現できる量産プラントを想定し、日量数トンの実験プラントを完成した。牛ふんや食品残さを回収し、ブランド米「近江米」の稲作に肥料を供給。資源循環と量産技術の確立を地域とともに目指す。
製造や走行時のCO2排出抑制に向けた施策は、地域ごとに最適解が異なる。スズキはインドで築いた知見をパキスタンや日本国内の酪農地域で展開することを視野に入れる。ダイハツも特産品にストーリーを付加する地産地消の枠組みに、地域活性化支援を含めて手応えを感じている。
地域や異業種との連携は、CN達成への一つの道となる。