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医療現場にXR技術が起こす変革

メドトロニックが訓練用システム提供
医療現場にXR技術が起こす変革

MRアナトミーは肺の立体構造を空間に表示、医師の育成に役立てる

医療現場でクロスリアリティー(XR)技術の活用が注目されている。医療機器メーカーの日本メドトロニック(東京都港区)などはトレーニングシステム「MRアナトミー」の提供を始め、国内でもXR技術を使ったサービスが本格的に開始した。医師の働き方改革で業務効率化が求められる中、デジタルツールの開発はますます活発化しそうだ。(安川結野)

MRアナトミーは日本メドトロニックとキヤノン、ザイオソフト(東京都港区)など4社が開発したデジタルツールだ。コンピューター断層撮影装置(CT)画像を元に高精細な実寸大の肺の3次元(3D)画像を現実の空間に表示する。新たなトレーニングツールとして注目されており、7月の提供開始後、すでに千葉大学と信州大学が年内の導入を予定しているほか、他の施設でも検討が進んでいるという。

医療現場でのXR活用が進む背景について、日本メドトロニックの平尾崇史氏は「2024年度から医師の働き方改革が実施され、トレーニングにも効率が求められるようになった」と説明する。一般的に、若手医師は熟練医師の手術を見ながら学ぶため、学習の機会や方法が限られる。また手術の際、熟練医師は患者のCT画像から臓器構造や腫瘍の位置を頭の中で立体的にイメージして手術を行うが、こうしたスキルの習得には3―15年ほどかかるという。

MRアナトミーは腫瘍の位置や、肺の中の血管や臓器の重なりなどを立体的に認識するのに役立つ。肺の角度を変えたり、拡大したりといった操作が感覚的にできるといった操作性の高さも特長だ。手術以外にも臓器や腫瘍の様子を観察する機会が増え、早期の技術向上につながると期待される。

調査会社のシード・プランニング(東京都文京区)によると、医療分野におけるXRの国内市場は、26年には約342億円に成長すると予想される。現在は医学教育分野での活用が中心だが、術前のシミュレーションを支援する医療機器としての応用も期待される。

MRアナトミーも他の臓器への技術応用や医療機器としての開発も検討されており、さらに利用拡大が見込まれる。医師の働き方改革が進む中、XRデバイスも医療を支えるツールの一つとして定着しそうだ。

日刊工業新聞 2024年10月3日

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