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住友化学・旭化成・三井化学…石化不況で構造改革、化学メーカーが新事業確立急ぐ

住友化学・旭化成・三井化学…石化不況で構造改革、化学メーカーが新事業確立急ぐ

レゾナック川崎事業所の廃プラを水素やアンモニアにリサイクルする川崎プラスチックリサイクル(KPR)プラント

化学大手が素材の供給だけでなく、新たな事業モデルの確立に力を注いでいる。製造ライセンス供与に加え、デジタル技術を使ったサービスや、素材を生かしたソリューション提案など取り組みは多様だ。業界を支えてきた石油化学は大きな事業環境の変化が起きており、各社は新たな付加価値の創出が欠かせない。化学各社は技術力を生かした事業変革を目指し、持続的な成長に向けて知恵を絞る。(山岸渉)

化学業界は今、事業環境の大きな変化点を迎えている。それを象徴する一つが、産業の川上を支える化学製品の基礎原料、エチレンの国内生産状況だ。石油化学工業協会(石化協)の統計によると、好不況の目安となる90%を割り込むのは、2024年7月統計までで24カ月連続となった。

化学大手の新事業モデル構築への取り組み

長引く背景には世界的な需給環境の変化がある。世界経済の低迷や中国経済の回復の弱さに加え、中国を中心とした石化プラントの新増設による供給過剰の状況も続く。

国内エチレンプラント稼働率

国内の化学業界はこれまで起きていた景気循環の中で石化の市況回復を期待するのは難しいと見る。「不可逆的な変化が起こった前提で構造改革を進めることが重要だ」(旭化成の工藤幸四郎社長)との声が聞かれる。そのため、各社はカーボンニュートラル温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)対応に向けたグリーン化や、石化の最適な生産体制構築に向けた連携の検討が進む。

一方で「構造改革には成長戦略も含まれる」(住友化学の岩田圭一社長)と言うように新たな事業戦略の重要性も増している。持続可能な成長に向けた事業ポートフォリオの変革であり、強みの素材に関する技術力を生かし、新たなビジネスモデルをいかに構築するか。

コト売りで付加価値

その一つとして挙げられるのが、従来のモノ売りからコト売りへの転換だ。コト売りの一つとして製造ライセンス供与などの活動をより積極化する。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業を活用した新たな技術開発も進む。製造ライセンスの供与では、環境負荷低減に関わる技術力を生かし、新興国の二酸化炭素(CO2)排出削減に貢献することで新たな付加価値創出を目指す動きもある。

製造ライセンス供与 海外と協業・水素技術を提案

新たな事業モデルの確立に向けて活発なのが、技術力を生かした製造ライセンス供与だ。住友化学は米KBRにプロピレンオキサイド(PO)製造技術のライセンス、米ルーマス・テクノロジーにアクリル樹脂(PMMA)のケミカルリサイクル(CR)技術のライセンスを供与し、協業する。住友化学の技術力をより幅広い顧客に提案してもらう取り組みだ。

また三菱ケミカルグループではリチウムイオン電池(LiB)用電解液の製造ライセンス供与や製造委託などに取り組む。レゾナックも川崎事業所(川崎市川崎区)で取り組む、廃プラスチックを水素やアンモニアなどにするCR技術のライセンス供与の提案を開始した。

旭化成は製造ライセンス供与に限らない、全社横断的に蓄積されている特許やノウハウといった無形資産を生かした「テクノロジーバリュー事業開発(TBC)」を推進。TBCでは顧客ニーズに合わせた技術支援やサービスなどさまざまな形を想定する。事業化のスピードと、保有資産を軽くするアセットライトを両立できる取り組みとして、従来に比べて、より早い収益化につながるとみている。

デジタル技術活用サービス 農業関連サイト拡充

デジタル変革(DX)の技術を活用した新たなサービス展開も出てきた。住友化学は農業関連のウェブサイトやアプリケーションを組み合わせた「つなあぐ」でのポイントサービスといった拡充に加え、植物など天然素材について売り手と買い手をつなぐ「ビオンド」の専用ウェブサイトを開設した。

住友化学のビオンド(サービス画面)

特にビオンドでは約200種類の含有成分などを分析でき、データベースにまとめる。買い手はデータベースから欲しい成分を探すことができる。売り手は残さが発生する食品工場、買い手は健康食品や化粧品関連企業などを想定する。素材提供で培ってきた固有のデータやノウハウを生かす。

こうした無形資産を新たな価値としてビジネスを創出する「DX3・0」を展開する。辻純平執行役員は「今回のビオンドがその先駆けとなる」と力を込める。

一方、三井化学では企業変革の一環でモノ売りから、サービスを含めたコト売りへの転換に向けてDXを生かす考えを示す。

回収プラスチックの状態などを追跡できるブロックチェーン技術を活用した資源循環プラットフォームの構築に取り組む。市村聡常務執行役員は「同じプラスチックでもどれだけエネルギーを消費したかなどがわかることが、顧客にとって価値になる」と将来性への期待を語る。

素材一体提案 半導体装置洗浄まで

素材でも一体提案による付加価値向上が重要になりそうだ。例えば、三菱ケミカルグループでは20年に半導体本部を設置。半導体材料や半導体製造装置の精密洗浄サービスなど、半導体関連のソリューションを一貫して提供する体制を整えてきた。医療関連の領域にも同社のさまざまな素材力を生かしてビジネス展開を促す体制づくりにも取り組んでいる。

旭化成のマイクローザを活用したWFI装置

旭化成でも、中空糸膜「マイクローザ」を活用した注射用水(WFI)装置の提案を通じ、膜システムサプライヤーへの進化を目指している。化学各社は単一の素材に限らない、いわば素材の“モジュール化”の動きが活発だ。

事業環境の変化を踏まえ、化学メーカーはそれぞれの知見を生かしつつ、新たな収益モデルの確立に向けた策を練って実行している。


【関連記事】 大手化学メーカー、構造改革の行方
日刊工業新聞 2024年9月5日

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