旭化成・住友化学・三菱ケミ…化学業界、若者開拓に知恵
化学系団体が若年層向けへの啓発活動や支援活動を推進している。日本化学工業協会(日化協)や日本化学会など4団体で構成する「夢・化学―21」委員会が小学生向けイベントを開催。また国際化学オリンピックに日本代表生徒を派遣する取り組みなどもある。一方、塩ビ工業・環境協会(VEC)は塩化ビニール樹脂に関するマンガを制作した。未来を支える若い世代への化学業界の訴求へ知恵を絞る。(山岸渉)
日化協など4団体親子で楽しむ実験ショー/国際化学オリンピックで「金」
「ここに来るとほっこりする。純粋に化学の実験を楽しむ子どもらがたくさん訪れる。こういったイベントは続けていき、さらに若い層にアプローチしていきたい」。日化協の進藤秀夫専務理事はこう力を込めた。
「夢・化学―21」委員会は3、4日の2日間、都内で小学生向け化学実験体験イベント「夏休み子ども化学実験ショー2024」を開催した。コロナ禍を経て4年ぶりの開催となった23年は事前登録制だったが、今回は自由入場制とした。多くの親子連れなどでにぎわい、2日間で計4200人が来場した。
化学メーカーなど15の企業・団体が趣向を凝らした実験を用意。小学生らに体験してもらうことで化学の楽しさを伝えていた。進藤専務理事は「子どもらができて面白い実験を考え始めると大変だし、工夫されている」と感心する。
例えば、旭化成ではアルミホイルと炭を使って「キャパシタ」という充電池を作ってもらい、ためた電気でモーターのプロペラを回す実験を用意した。参加した子どもらの真剣に取り組む表情がみられた。
住友化学による偏光板を使ったステンドグラスを作る実験のほか、三菱ケミカルグループでは光を当てると固まる材料でオリジナルストラップを作成したり、三井化学の実験ではプラスチックを使ったオリジナルブレスレットを作ったり、参加者はさまざまな化学実験を体験することができた。
クイズを通じて化学を楽しく学べる「なぜナニ化学クイズショー」では、参加した子どもらの感嘆の声が上がっていた。
また同委員会の公式動画チャンネルに出演する新たなキャラクター「化学マン」が会場に登場した。動画投稿サイト「ユーチューブ」で22年7月に開始した同委員会の公式チャンネル「子ども化学チャンネル」で、化学マン出演の第1弾として「水と油でふしぎな実験」の動画を配信した。化学マンはメインの実験役として今後も出演する予定だ。
同委員会ではこのほかにもさまざまな世代の若者向けに啓発・支援活動を実施している。学校の先生が講師として本格的な実験を通じて教える「なぜなに?かがく実験教室」は小学校1年生から4年生までを対象とし、都内で年6回開催している。
また同委員会と日本化学会が主催する「化学グランプリ」は高校生以下を対象とする化学コンテストだ。中高生の化学への興味・関心を喚起し、意欲・能力を高め、世界に通用する化学者の育成を目的に実施している。同大会の参加者から次の年の「国際化学オリンピック」への代表候補生徒を選抜しており、参加者のうち高校2年生までの成績優秀者20人程度が1次代表候補生徒として推薦されている。
7月にサウジアラビアのリヤドで開催された「第56回国際化学オリンピック」に参加した生徒のうち、神奈川県の栄光学園高校3年の大沼拓実さんと、兵庫県の灘高校2年の斎藤健太さんが金メダルを受賞した。そのほか東京都の筑波大学附属駒場高校3年の飯野拓人さん、神奈川県の洗足学園高校3年の鈴木亜麻音さんが銀メダルを受賞し、優秀な成績を上げた。
また、日化協では化学人材育成プログラム協議会で、化学産業界での活躍を目指す博士課程学生を支援しており、さまざまな取り組みを通じて次世代の化学業界を担う人材育成を重視する。
塩ビ工業・環境協会漫画で塩ビ情報発信
化学製品について、身近な漫画という形で若い世代向けなどへの情報発信に取り組む動きも出てきた。VECは「マンガでわかる」シリーズとして、「マンガでわかる身近な塩ビ」と「マンガでわかる塩ビの秘密」のパンフレット仕様(A6サイズ、16ページ、蛇腹仕様)を制作した。塩ビが身近な生活を支える点や、ダイオキシン問題は解決している点などを訴求する。
VECの藤井一彦会長(カネカ社長)は「適切に処理をすれば、ダイオキシンが発生しないのは科学的に証明されている。それをまだ完全に理解されてない方もいる。漫画で消費者らに正しく理解してもらうことが大事だ」と説明した。
23年度にZ世代や主婦層を対象に、会員制交流サイト(SNS)に漫画を使った記事を掲載したところ、想定を大きく上回るページビューを獲得したという。より広く世間一般に浸透させるには、SNSだけでなく紙媒体との併用が効果的だと考えた。出前授業やイベントなどで積極的に配布していく。
【関連記事】 大手化学メーカー、構造改革の行方