世界最高級の精度と小型化を両立…東芝「慣性センサーモジュール」の性能
東芝は世界最高級の精度と小型化を両立した「慣性センサーモジュール」を開発した。航空機に搭載すれば太平洋航路を全地球測位システム(GPS)を使わずに横断可能な精度で、実用化すれば飛行ロボット(ドローン)などによるインフラ点検や工場の無人化など、省人・無人化に貢献する。併せて同モジュールを使う持ち運び可能な高精度の「ジャイロコンパス」も開発しており、防衛分野や土木分野での応用を目指していく。(編集委員・小川淳)
慣性センサーは物体の回転や向き、加速度などを検出する装置。センサーを物体そのものに搭載するため、トンネル内など電波や画像データの届かない場所でも動きや姿勢を検知することができる。自動車や航空機のほか、スマートフォン画面の自動回転機能など多くの分野で導入されている。
ただ、今後ドローンや無人搬送車など小型・自律型のモビリティーの普及が進む中、従来の慣性センサーでは小型化すると精度が落ちるという課題があった。このため、小型・高性能な慣性センサーを開発すれば、小型の自律モビリティー向けに「爆発的な普及が見込める」(東芝研究開発センター先端デバイス研究所の冨沢泰フェロー)と考えている。
東芝では独自の微小電気機械システム(MEMS)技術を活用することで、物体の角度を直接検出して誤差を低くする機能を持つジャイロセンサーを開発。同時に、加速度センサーも特定の周波数の変化で計算する方式を用いた。これらを組み合わせることで、慣性センサーモジュールとした。
ジャイロセンサーは1時間当たりの角度変化が0・01度しかない。加速度センサーも高感度の地震計と同等の精度を確保しており、小型センサーとしては世界最高級の精度だという。
また、東芝グループの東芝電波プロダクツ(川崎市幸区)では、開発した慣性センサーモジュールを組み込んだ重さ4キログラムと持ち運び可能なジャイロコンパスを開発した。一般的な方位磁石が地磁気を利用するのに対し、ジャイロコンパスは地球の自転を基にして真北を指すため、方位角の精度が高い。
従来、機械式や光学式のジャイロコンパスがあるものの、重さは数十キログラムにもなり「手で持って運ぶことは難しい」(冨沢フェロー)。極めて高い精度での設置が求められる防衛分野でのレーダーや土木工事での測量など、広い分野での普及が見込める。同製品については2026年度以降の製品化を目指しているという。
冨沢フェローは少子高齢化が進む中、「無人機が社会インフラのいろいろなところで活躍するのは不可避であり、そうした世の中を実現しないといけない」と述べた上で、開発した技術が「その実現を早めるキーコンポーネント(主要部品)となる」と強調した。
東芝はさらに慣性センサーモジュールの小型化を進め、防衛・民生分野における市場展開を目指していく。